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2010-08-20(Fri)

FF9 Sanctuary

リンドブルム領ピナックルロックス。

精霊に守護されし聖なるこの地に、一組の男女の姿があった。

金色の髪に尻尾を生やした青年と、長い黒髪を後ろで緩く束ねた色白の女性。誰もが敬遠するこの地にわざわざやってきた彼らは、水辺で静かに手を合わせると、見えない何かと言葉を交わした。

ひと月ほどその地に通い、同じように言葉を交わした彼らは、ある日そこに小さな家を建て始めた。

慣れた手つきで大工道具を操る青年は、数日の後に物語に出てくるようなかわいいログハウスを作り上げ、女性と共に住み始めた。



女性の名はガーネット、青年の名はジタン。共にガイアを救った英雄であり、ガーネットはアレクサンドリアの女王でもあった。

数ヶ月前、その女王は王統政治を廃し、自国を共和国に作り変えた。そして自らの身辺を整理すると、ジタンと共にアレクサンドリアから出国した。



「まさかガーネットが国を出るとは思わなかったよ」

ピナックルロックスに落ち着いたある日、ジタンはガーネットが入れた紅茶をすすりながら思い出したように呟いた。

緑豊かな大自然の中、柔らかな木漏れ日が二人に降り注ぐ。その日差しを眩しそうに避けながら、ガーネットは手作りのケーキを切り分けた。

「国を混乱させてしまったことは、申し訳なかったと思うのよ。だけど、アレクサンドロス王家と一部の門閥貴族だけがあの国を支配し続けていたら、今にあの国は立ち行かなくなっていたに違いないわ」

選民意識の強い貴族達と平民の貧富の差は広がるばかり。その不平等さを是正しようとする貴族はゼロに近かった。身分格差ゆえの悲劇は後を絶たなかったし、重税に耐えかねたトレノやダリの平民は団結して立ち上がろうとしていたのだ。

「確かに、ガーネットの措置は絶妙のタイミングだったと思うよ」

ジタンは以前に比べるとだいぶ上手くなった彼女のケーキを頬張った。今回のスポンジは固すぎず柔らかすぎず、ふうわりとしてジタンの好みに焼きあがっていた。

「ダリとトレノの民が結束して反乱を起こす計画があるって教えてくれたの、ジタンだったものね」

その報告が、ガーネットの決断を促した。反乱を許せば犠牲の多くは武器の乏しい平民に集中する。犠牲を最小限に抑えて鎮圧できたとしても、国は衰退を早めるだけであった。

「今頃トット先生とスタイナーのおっさんはガーネットの不在を取り繕うのに苦労してんだろうな」

その原因を作った本人は、生クリームの付いた指をペロリと舐めると徐に紅茶を飲み干した。

「悪い、ガーネット。紅茶をもう一杯、頼む」

「はいはい」

まるで子供のような態度のジタンに、ガーネットは優しく微笑む。

ピナックルロックスに来てから、ジタンは以前より我侭になった。料理の味についても遠慮なく注文をつけるし、掃除や洗濯の仕方も細かく指示する。生活の総てにおいて、女王であった彼女にはかなり厳しいと思えることを言うのだが、ガーネットは不器用ながらもどうにかその注文に応えてきた。

そしてそれらを難なくこなせるようになってきた今、ガーネットは一人の女性としての幸せを噛み締めていた。

「スタイナーやトット先生には悪いことをしてしまったわね」

「ああ。ベアトリクスにも、な」

「ええ」

シドの助けを得て、アレクサンドリアは共和国としての形をどうにか整えた。だがガーネットの名声は依然として高く、王家のハードルが低くなったことで不埒な考えを画策する輩が現れだした。

「ガーネットを誘拐しようなんて、命知らずなヤツがいたもんだよな」

共和制を取り入れたからといって、王家が無くなるわけでもない。その権限が縮小されるだけのことであり、象徴としてのアレクサンドロス家は健在だった。

そして、この機に乗じてガーネットを手中に収めようとした貴族の若者が逮捕される事件が起きたのだ。

若者は、以前ガーネットに縁談を断られた中流貴族の跡取で、誘拐の動機としてガーネットへの乱暴が目的だったことを認めた。更にスタイナーの厳しい尋問の末、手篭めにしたガーネットを操り、王統政治を復活させようと目論んでいたことも明らかになった。

『今回はジタン殿が居られたおかげで未遂で済みましたが、いつまた同様の犯罪が起きないとも限りませんなぁ…』

取調べの結果を聞かされ、トットは暗澹たる思いだった。

アレクサンドリアの空は青く澄み渡っているのに、その下に暮らす者たちの心は荒んでしまっている。国が変革を遂げようとしているのだから仕方の無いことだとも思うのだが、新しい時代を築くはずの若者がそれではこの国の前途は暗い。

トットはアレクサンドリアとガーネットの未来を思い、深い溜息をついた。

『とにかく、ガーネット陛下の身辺警護を強化するのであります!』


スタイナーはプルート隊を総動員し、城の警備を強化した。だがジタンに言わせればまだまだ甘い警備状況であり、出産の為に休暇中であるベアトリクスの不在は大きかった。



『ガーネットが誘拐されない方法が一つ、あるぜ』

不安の色を隠せないトットに、ジタンは不敵な微笑を向けた。だがジタンの言葉を素直に受け取ったトットは嬉々として飛びついたのだ。

『ジタン殿、それは本当ですかな?』

そして力強く頷いたジタンを全面的に信用したトットは、総てをジタンに一任することにした。だが――。

「それがジタンによる私の誘拐だったなんて、トット先生も驚いたでしょうね」

ガーネットは左手を口元に当て、ころころと鈴のような笑声を零した。その仕種は王家に育った彼女らしい、高貴な印象を与える。

ジタはふと気になったことをガーネットに尋ねた。

「ガーネットは、今、幸せ?」

「え?」

訊かれたガーネットは笑う仕種をそのままに黙り込んでしまった。



女王として何不自由ない暮らしを送っていたガーネットを人里離れたこの地に連れ出したのはジタン。ガーネットが何者かに誘拐され、行方不明であると公表するようにスタイナーとトットに書置きを残し、ほとぼりが冷めるまで…若しくは一生涯アレクサンドリアには戻らないとの決意を固めてこの地に赴いた。

精霊に護られたこの地であるなら、誰にも見つかる心配は無い。そして精霊たちも、ジタンとガーネットをこの地に受け入れた。

だが今になって思うのは、本当にこれでよかったのかということ。

「ガーネットを魔の手から救う為って言いながら、真実ほんとうはガーネットをオレだけのものにしたかったのかもしれない…」

ジタンはガーネットから視線を逸らすと苦しげな表情を浮かべた。訪れる静寂がジタンの胸を締め付ける。

その時、渓谷を吹き抜ける涼やかな風がジタンの頬を擽った。その風に乗って、心地よい香りがジタンを包み、そして――。

柔らかなぬくもりがジタンの口唇にふわりと重なった。

「…ガーネット…?」

そのぬくもりが離れた時、ジタンの目に映ったのは頬を朱く染めて俯くガーネットだった。

「私…、今とても幸せよ。ジタンの計画を聞かされた時は驚いたけれど、決断して良かったと思っているのよ」

「ガーネット…」



世間では行方不明者となっているガーネット。

一度行動を起こしてしまった以上、すぐにはここを出られないし、大切な人達に会うことも儘ならない。

「それでも…、私にはジタンがいるもの」

そう言って、ガーネットは本当に幸せそうな微笑を浮かべた。

――今はいい。今は、これでもいい。だけど、いつかきっと、オレはガーネットを外の世界に還す。そして今度こそ、堂々と二人で幸せを掴んでみせる。



ジタンはガーネットを抱き寄せた。

「愛してるよ、ガーネット」

「私もよ…、ジタン」

堅く抱き合う二人を、ピナックルロックスの精霊たちが温かく見守っていた。





サイトの日記に書き下ろした小説なので、正式には公開していませんでした。FF Story Database での公開から1ヶ月以上経ったので、こちらでも正式に公開します。(単に気紛れなだけですが・・・)


2003.6.2 2003.06.13公開 2003.07.20サイトでも公開



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