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2010-08-16(Mon)

金色のコルダ3 最高の夏休み

最高の夏休み


ファイナル終了の翌日、菩提樹寮(リンデンホール)ではこの夏を共に過ごした仲間達が荷造りに勤しんでいた。
東金、土岐、芹沢は西へ。八木沢、火積、新、狩野、伊織は北へ。それぞれの故郷へ戻るために。

「本当にこのまま帰っちゃうの?」
かなではリビングで休んでいた土岐に向けて、口を尖らせた。
「ああ、小日向ちゃん。そんな表情(かお)せんでも、小日向ちゃんが神南に転校してくれたら、毎日会えるんやで?」
けだるそうにソファに身体を預けながら、土岐は妖しい微笑を浮かべる。が、かなではぷっと頬を膨らませると、
「そうじゃなくて!」
と、声のトーンを少し上げた。
「明日のお昼に送別会やろうって言ってるのに、みんな遠慮するって…」
「それはやね、小日向ちゃん」
かなでの言葉を遮って、土岐が諭すように語り掛ける。
「みんな、送別会を開いてくれる言う、その気持ちは嬉しいねん。パーティーは盛り上がって、それは楽しい思い出にもなるやろ」
「だったら…」
口を挟みかけたかなでに、土岐は軽く右手を挙げて制すると、先を続けた。
「そやけど、ここでの生活があまりにも楽しかったさかい、その反動が怖いんよ」
「反動?」
「そや、反動。楽しかったことが終わるんは仕方ないことや。それは解かっとってもその後にある別れっちゅう寂しさを、送別会ではどうしても意識してしまうやろ。その寂しさに耐える姿を、キミに見せたく無いんよ」
「でも……」
「男のプライド。解かってあげて欲しいな?」

かなでは寮の中を見渡した。リビングに居る自分と土岐以外の男性陣は、横浜でできたファンの子達からのプレゼントやお土産品で膨れた鞄と格闘しているようだ。
「やっぱ、着替えは宅配便で送ろうよ」
「土産はすぐに手渡したいから持って帰るとして・・・」
「楽器も手持ちだぞ!」
そんな声が聞こえてくる。

「そうだね。明日の夕方の新幹線で帰るんだもん。きっと片づけで疲れているだろうし、明日の午前中は足りないお土産を買ったり、宅配業者を呼んだり……、忙しいよね、きっと」
かなでは土岐にニッコリ笑うと、自分の部屋に戻って行った。

「ホンマはな、小日向ちゃん。キミにサプライズプレゼントがあるんよ。皆も帰郷は明後日に延ばしたんやで、キミのために。だから送別会はやらんでもええやろ、な?」
既に姿の見えなくなっていたかなでの去った方向に、土岐は静かに呟いていた。



翌日の日曜日。
この日の夕方の新幹線でそれぞれ帰郷すると、神南組も至誠館組もかなでに伝えていた。
だから午前中に送別会を、というのがかなでの提案だったのだ。が、それを断った経緯は昨日の土岐の言に
詳しい。
「私だって、みんなと別れるのは辛いんだよ」
早朝の静まり返った寮のリビングで、かなではそう独り言ちた。今日はみんなが起きてくれば賑やかになるこのリビングも、明日からは今と同じ寂しい光景になるのだろう。
胸が締め付けられるよな感覚を振り切るように、かなでは踵を返した。そして鍵の壊れた勝手口のドアから、そっと外に出て行ったのだった。



「じゃあ、今日の予定を確認しておくぞ」
朝、9時。
寮のリビングに集まる男性陣の中で、東金が声を張り上げた。空かさず芹沢がスケジュールの書いてある紙を東金に手渡す。
「午前11時、ランドマークタワーにある横浜ロイヤルパークホテル68F フレンチレストラン『ル シエール』で食事。ここの担当は俺と土岐だ。で、その後は土岐の車で新港埠頭まで行き、俺の船で湾内一周。時間調整。
こっから先は八木沢たち至誠館の出番だ」
すると今度は八木沢が立ち上がった。
「僕たちは、小日向さんが横浜のガイドブックを見て行ってみたいと仰っていた、スイーツのお店にお連れします。時間的にもそろそろ口が寂しくなる頃と思われますからね」
そこで八木沢の横で黙って聞いていた赤い髪の男がボソッと訊ねた。
「オレも行くんスか?」
火積のその言葉に、その場の全員の視線が発言者に注がれた。
「……んだよ」
威嚇するように、火積が皆を見回す。
「こら、やめなさい、火積」
「部長……」
「部長はもう、キミだよ。…って、その話は置いといて、キミも小日向さんに世話になったお礼がしたいだろう?」
「そりゃ…、まあ」
「だったら、一緒に行こう。スイーツの店と言っても、男子が行ってもおかしくない店造りだそうだからね」
そう言って、八木沢は響也を顧みた。
「あ、ああ。オレも学校のダチと男だけで行ったけど、フツーの店だったぜ」
響也の言葉に兄の律が驚きの表情で弟を見つめた。
「な、なんだよ律! オレはダチが好きな子に告る場所の下見で無理矢理っ……て、まあ、いいや」
一瞬ムキになった響也だったが、すぐにフッと短いため息をついて顔を背けてしまった。理由を説明する必要もないし、敢えて説明することのバカばかしさにも気付いたからだ。
「ま、まあ、これで火積も行くことに躊躇いは無くなると思うし……。ありがとう、響也くん」
八木沢がその場をとりなした。
現時点で時間は9時半。そろそろかなでを起こして、出掛けることを告げる。その時のかなでの驚きと喜びが入り混じった表情や言葉を、その場の男性陣はそれぞれに想像し、その瞬間(とき)の訪れを最大の楽しみとしているのだった。



一方、時間を少し戻して朝6時。
かなでは寮の人たちを起こさないように、そっと寮から出て行った。
「本当はお弁当も作りたかったけど、そんなことしたら皆を起こしちゃうもんね」
駅までの道のりを早足で進みながら、途中のコンビニで買ったスポーツドリンク入りのペットボトル2本をバックにしまうと、かなでは腕時計で時間を確認し、
「日曜日の下り方向の電車は、6時32分があったはずだから、間に合うよね」
そう呟いて足を速めた。

駅に着くと、かなでは手帳を取り出し、行き先の駅名を確認した。
昨夜、急に思い立って電話をかけた相手は、今日会うことを快諾してくれ、そちらに行きたいと言うかなでの我が侭をも受け入れてくれたのだ。
そして最寄り駅とそこからの道順を説明してもらったかなでは、この手帳にそれらを書き留めて持って来ていた。
予定どおりの電車に乗り込むと、かなでは携帯電話をマナーモードに設定して、車窓からの景色を眺めた。
思えばこの街に越してきてからというもの、練習漬けの毎日で、最寄の駅から下り方向に行くのは初めてのことだった。
「緊張するけど、なんだか楽しい」
流れる景色を眺めながら、かなではちょっとした冒険気分に心を躍らせた。

乗車から16分後、手帳に記された駅名がアナウンスされ、かなではホームに降り立った。
『改札を出たら、バスターミナルとは反対の方向へ。大きな病院があるので、その横の坂を下って突き当たりの公園』
手帳にはそう書いてある。
だが、かなではかなりの方向音痴である。
「改札を出て大きな病院…って……どこ?」
そんな建物は全く見えない。この駅の改札は地下にあり、地上に出る前には目印として教えられた病院は未だ見えないのだ。
「わ…、わからない…………」
考えてみれば、寮の最寄駅からちゃんと下りの電車に乗れたことですら、かなでにとっては奇跡に近いことであり、そんなかなでが電話で説明されただけの道順で目的地に辿り着ける筈がなかったのだ。

「小日向ちゃん!」
その時、聞き覚えのある声がかなでを呼んだ。
「火原さん!」
既に半べそをかいていたかなでは、その頼もしい声に救われた。
「迎えに来て、正解?」
かなでの表情を見て、火原は苦笑した。
「小日向ちゃん、確かセミファイナルの後に迷子になったって言ってたよね? だから心配で来ちゃった」
セミファイナルの日の夕方、花火大会で混雑するみなとみらい。かなでは他のメンバーとはぐれて人ごみに流され…………。
「あっ、あれは花火で……」
反論しようとしたかなでだったが、口を開いた途端に涙が零れそうになり、慌てて口を閉じた。そのまま俯いてしまったかなでに、泣き出したのかと慌てた火原は
「あっ、えっと、車……、上に停めてあるから…………、行こうか?」
そう言ってかなでの頭にポンと手を置いた。
「車?」
言いながら顔を上げたかなでの瞳は僅かに赤かった。
だが、敢えてそのことには言及せず、火原は明るく言った。
「うん。今日はドライブに変更!」
「え?」
火原は今日、兄達と公園で朝からバスケをやるのだと言っていた。かなでは観戦したいと言って、ここまで来たのだ。
「実はさ、兄貴に小日向ちゃんが来ることを話したらさ」
火原は昨夜のかなでとの電話の後、兄の陽樹にかなでのことを話した。すると陽樹はこう言ったのだ。
「バカだな、お前」
と。
「高校生の女の子が直接電話してきて、おまけに会いたいって言われたんだろ? それなのに、俺との約束を優先するって、ありえないだろ、それ?」
そしてかなでが横浜に来て日が浅いことを知ると、更にこう言った。
「その子、寮の近くしか知らないんだろ? ドライブにでも連れてってやれよ」

「だからさ、ドライブ。いいよね?」
そう言った火原の笑顔はとても明るく、
「はい。ありがとうございます」
先ほどまで涙ぐんでいたかなでは、釣られたように明るい笑顔で火原に答えていた。そして思わず遠出できることになった事に喜びつつも、火原の兄に申し訳ないとも思うのだった。



話を菩提樹寮に戻して、時間は午前10時。
「おっかしいな~。かなでのヤツ、電話に出ないぞ」
イラついた様子の響也が携帯電話を睨み付ける。
「小日向先輩はぐっすり眠っていると電話にも気付かない人ですよね?」
と、かなでの寝起きの悪さを知る悠人が自分の携帯電話を見つめつつ、
「ボクもさっきメールしてみたんですが、当然ながら返事はありません」
と響也に言った。
「困ったな。まさか、オレたちが女子の部屋に起こしに行くワケにはいかないし」
東金がかなでの部屋の方を見ながら舌打ちをする。
と、そこに支倉ニアが姿を現した。
「なんだ、朝っぱらから皆で。大会も終わったというのに、ミーティングか?」
いつもの冷めた口調でリビングを見渡す。そんなニアに、男性陣は渡りに船とばかりに詰め寄った。
「か、かなで!」
響也が叫んだのに、ニアは怪訝な表情を浮かべる。
慌てるあまりに言葉に詰まる響也に代わり、冷静な律がニアに言った。
「小日向を起こしてきてくれないか?」
だが、ニアは更に首を傾げると、爆弾を破裂させたような発言を返した。
「小日向なら、朝早くに出掛けたぞ」

一瞬の静寂の後、リビングは文字どおりパニックになった。
東金はいつもの余裕を無くして叫ぶ。
「おい、芹沢。レストランの予約を取り消せ!」
響也は再び携帯電話のボタンを押す。
「かなで! 電話に出ろ! どこにいるんだ~~~」
律はフッとため息をつきながら、めがねのフレームを人差し指で押し上げる。
八木沢は困り顔で微笑するという器用な表情を浮かべながら、感心したように言う。
「流石は小日向さん。行動の予測ができませんね」
悠人は呆れたように言う。
「だから最初から予定を話しておけばよかったんですよ」
そんな悠人に新が明るく反論する。
「そんなことしたら~、サプライズプレゼントにならないじゃん~」
土岐が扇子を使いながら、更に反論する。
「そやかて、結局はサプライズどころかプレゼントにもならへんやったやないのん?」
それまで無表情で黙っていた火積がボソッと二発目の爆弾を破裂させた。
「まあ、オレはワケの分からんスイーツの店とやらに行かなくて済むなら、いい」
それは、ただでさえ計画が台無しになってイラついていた皆の、その行き場のない怒りが捌け口を見つけた瞬間だった。
「……仕方ない。だったら、ここは、火積くんに楽しい強烈な思い出をプレゼントしてあげようじゃないか?」
「それはいい考えだ」
「決まりだな」
「良かったな、火積」
「支倉先輩も、一緒に行きませんか?」
「せやな。こういうことは、大勢の方が楽しいしな」
周りの異様な雰囲気に圧倒され、火積は言葉を失った。穏健派の八木沢でさえ、火積の味方になってくれないのだ。
「火積先輩~、いい思い出にしましょうね~~~」
火積の気持ちを知ってか知らずか、新はいつものように能天気に言い放つ。
「フフ。これはいい記事になりそうだ」
ニアは早速デジカメを構える。
最早、反論する術も無く、火積は理不尽さと己の未熟さとを呪いながら、心の中で叫んでいた。
『小日向! 今すぐ戻ってきてくれ~』
と。



菩提樹寮がこんな騒ぎになっているとも知らず、かなでは火原の運転する自動車の助手席で火原との会話を楽しんでいた。その表情は明るく、夏休み最後の日曜日を心の底から満喫していた。
帰宅後に待っているであろう、気まずい空気を知ることもなく――――。




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あとがき・・・
恋愛の絡まないコルダ3です。
以前、ブログにも書きましたが、12股をプレイしてしまうと誰か一人に思い入れするということができないんですね。なので、みんなでワイワイというお話にしてみました。
恋愛にすると・・・・・・誰がいいのかな?(汗
2010.08.13
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テーマ : 金色のコルダ
ジャンル : ゲーム

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