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2010-02-28(Sun)

時の贈り物 2

「ごめんね、もう時間がないんだ」

唐突に祈り子は言った。

「時間が無い?どういうことだ」

祈り子の言葉にティーダが声を荒げた。頭の片隅に押しやっていた不安が広がっていく。しかし祈り子はあくまでも冷静にこう告げた。

「エボン=ジュが居なくなった今、ボクたちの夢を召喚するものはもういない。だからこの世界も消える」

それは確かにスピラで聞いていたことだった。

「では、なぜ?なぜティーダと私はここに居るの?」

そう訊いたのはユウナだった。この世界が消える、ティーダが消えてしまうなんて信じられない、信じたくない。

だが祈り子は穏やかな口調を崩さず続けた。

「これはボクたちの最後の夢。異界へ行くまでの間に見ている名残の夢」

淡々と話す祈り子は更に言った。

「これはボクからのお礼、ティーダはザナルカンドに帰りたかった、ユウナはザナルカンドに憧れていた。これが最後だから、もう夢は終わるから…」

そして祈り子は消えてしまった。

「お、おい!まだ話は終わってないんだぞ」

誰も居ない空間に向かってティーダは叫んだ。そして黙り込むと、肩を落としその場に立ち尽くしてしまった。





ティーダの肩は微かに震えていた。為す術も無く、ユウナはその背にそっと寄り添う。

「…つらいだけじゃないか」

ティーダが絞り出すような声で言った。

「あの時、消える事は覚悟していたさ。飛空艇の上で、これでサヨナラだ…って」

「……」

ユウナは黙ってティーダの言葉を聞いていた。

「そうだろ?それなのに…気がついたらザナルカンドで…ユウナがいて、ブリッツも出来て…ああ、オレは消えないんだ、帰ってこられたんだ。そう思ってたのに…」

黙って聞いていたユウナがティーダの背中から自分の腕を前に回し、ティーダの体をぎゅっと抱きしめた。

「大丈夫、きみは消えない。きみは…消えないんだよ。だって、こうして…ここにいる。こうやって抱きしめられる。あったかいよ。消えるなんて…ウソだよ」

その時ティーダが体を翻し、ユウナの体を正面から抱きしめた。強く、ユウナが壊れてしまいそうなくらいに強く。

ユウナもティーダを抱きしめた。ティーダが消えてしまわないように。



「お願いがあるの」

かすれた声でユウナが言った。

「キミの…キミのぬくもりを…」

そしてティーダを抱きしめる腕に力を込めて、再び言葉を紡ぐ。

「私と……ひと…つ…に……」

後は言葉にならなかった。涙があふれて声にならない。

「ユウナ…」

重なった唇からもティーダが震えているのが伝わってくる。ティーダのぬくもりと一緒に。

その唇がユウナの頬から首筋へと滑り落ちた。



もう何も考えられなかった。ただ、ティーダのぬくもりを、存在を、自分の肌で感じていたかった。

体の芯から広がる熱い痛みもティーダの存在を確認できる喜びに変わる。二人ではなく、一つに溶け合わさって一人になりたいと、心から願った。





「海…見に行こうか」

ティーダがそう呟いたのは東の空がうっすらと明け始めようとしていた時。

その腕の中にしっかりとユウナを抱いたまま、やさしく微笑んだティーダが言った。

「約束だっただろ、夜明けの…バラ色の空と海を見せる…って」



二人が海岸に着いたのは海に懸かる雲の上から、朝日がほんの少しだけ顔を出した時。

「きれい……」

空も海も、雲までもがバラ色に染まり…でも全てが同じ色ではなくて…。

微妙に違う色のバラ色。スピラでは見られないその光景にユウナが見惚れているとティーダが言った。

「見せたかったんだ、ユウナに。この景色を…、オレのザナルカンドを…」

それはまるで、もう思い残す事は無い、とでも言うような言葉。

驚いたユウナが振り返り、ティーダを見つめた。穏やかに微笑む彼は、何もかもを悟ったような表情で…。

「イヤ!消えないで」

バラ色の空に消え入ってしまいそうなティーダにユウナが駆け寄った。





――抱きしめた…と思ったのに……。

ユウナの体は空を切り、飛空艇の固い床の上に投げ出された。ザナルカンドは…祈り子たちの夢は消えていた。そしてあの時止まったキマリたちの時間は再び動き出していた。

「ユウナ!」

ルールー達が心配そうにユウナを見つめていた。

しばらく倒れたまま動けなかったユウナがそっと立ち上がると言った。万感の思いを込めて

「ありがとう」と。

その体を後ろから抱きしめたティーダが決心したように前に進む…ユウナの体をすり抜け…そして……。





あれからどの位、月日が流れただろう。

一時期、『シン』を倒した英雄として扱われたユウナたちも、ビサイド村でひっそりと暮らすうちに、いつしか時の人となってしまっていた。

『シン』のいない平和な日々が当たり前のものとなり、エボンの教えも風化した。民族間の差別や争いは無くなったものの、機械の知識を得る為にアルベド族を利用しようとする悪しき者が現れるに至り、病気療養中の父の跡を継いで族長となったリュックは、その知識を新しく建設したホームに封印してしまった。それでも情報の流出は押さえられない。いつしか機械の便利さと引き換えにこのスピラの自然を差し出す時が来るのだろうか。

――そうならないように、ユウナ達が守ればいい、スピラの自然を――

そう言った金髪の少年のことを思い出し、ユウナは胸が熱くなるのを感じていた。





シドを見舞うために訪れていたアルベド・ホームからの帰途、飛空艇から変わりゆくスピラを複雑な気持ちで眺めていたユウナは突然、

「母さま!」

そう呼ばれ、我に返った。

「母さま、何考えてるの?また父さまのこと?」

かつてスピラを『シン』の脅威から救った大召喚士を母に、そのガードの一人であった今は亡き金髪の少年を父に持つこの子もまた、父親譲りの金髪に青い瞳を持っていた。

ユウナは優しく微笑んで、その子の頭を撫でた。

――この子を産むと言った時、ルールーもワッカもキマリもリュックも物凄く驚いたのよね。でも誰も反対しなかった。皆で私とお腹の子を守ってくれた。大切な仲間の血を受け継ぐ子。ティーダ、あなたの命はこの子に受け継がれたの。あなたの命は消えていないのよ。

大空を仰ぎ、遠くで見守ってくれているであろうティーダに向かって心の中でそう呟いた。





時は流れ、時代は移り行く。そして命もまた、次の時代へと受け継がれていく。

かつてスピラを覆った死の螺旋は、そんな当たり前のことを許してはくれなかった。

だが、今は…、誰もが未来を夢見ることができる。そして同時に人々はその未来をより良きものにする責任も負ったのだ。

「私、がんばるよ。キミのためにもね」

母親に急にそう言われてキョトンとしてしまった愛しい我が子をユウナは目を細めて見つめた。



「ユウナん、もうすぐビサイドに着くよ~」

リュックが手を振りながら走ってくる。

ビサイドの海岸にはルールー、ワッカ、キマリが迎えに来てくれている。

――この素晴らしい仲間たちと共に、力強く生きていこう。この子のためにも…、ティーダの命を未来に繋いでいくためにも……。



「私、がんばるからね」



  2001.8記

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