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2010-02-28(Sun)

時の贈り物 1

エボン=ジュとの戦いが終わり、ユウナの最後の、そして最も辛い異界送りが始まった。永き眠りの中で夢を見ることを強要された祈り子たちと、召喚士と共に戦った召喚獣を異界へ送る儀式。それはとても悲しく…これで全てが終わった筈なのに、どうしようもなく悲しい儀式だった。

「アーロンさん!?」

突然ユウナの舞が中断する。死人であるアーロンもまた、異界へ旅立つ時が来たのだ。

「続けろ、これでいいさ」

戸惑うユウナ達にそう言ったアーロンの体は除々に幻光虫へと化して行く。

10年前、ガガゼト山の麓で託した願いを充分以上に果たしてくれたキマリの胸をポンと叩いたアーロンは、共に旅をしてきた仲間を見渡した。

「10年、待たせたからな」

そう言うと、今までユウナが舞っていた場所へと歩いて行った。それはかつての戦友にして最大の敵、『シン』となったジェクトの最期の場所でもあった。

「もう、おまえたちの時代だ」

仲間達を振り返り、声高にそう告げたアーロンは無数の幻光虫と化して空の闇に溶け込んでいった。



飛空艇にもどり、ユウナは異界送りを続けた。ユウナの舞いに送られ、祈り子も召喚獣も異界へと旅立っていく。

そして――。遂にティーダにもその時が訪れた。



自らの身体が透き通り、実体が消えかけているのにティーダは気付く。覚悟していた筈なのにやはり動揺を隠せない。しかし仲間達には悟られまいと、努めて明るくティーダは振舞った。

「オレ、帰らなくちゃ」

顔を上げ、やはり気付いていたユウナにティーダは言った。

しかし、ユウナは今にも泣き出しそうな表情で首を横に振る。

「ザナルカンド、案内できなくて、ゴメンな」

そんなユウナにティーダは明るく言った。そして少し歩き出したところで仲間達を振り返り、

「じゃあな!」

そう言って再び歩きだした。

去っていくティーダに動揺する仲間達。しかしただ黙って見送る事しか出来ない。そんな中、暫くティーダを見つめていたユウナが、突然後を追って走り出した。

「ユウナ!」

キマリの叫び声にふりむいたティーダは反射的にユウナを抱きとめようと両手を広げた、その瞬間―――。

しっかりと抱き合った二人は白く暖かい光に包まれた。そして光に奪われる意識の片隅で、二人はキマリたちの時間が止まっていることを確認した。やがて光は二人の視界を完全に奪い……。







気が付くと二人は固く抱き合ったまま、見知らぬ街に立っていた。否、知らなかったのはユウナだけで、ティーダには見覚えのある街…。

「ザナルカンド、オレの…ザナルカンド…?」

『シン』に襲われたことが嘘のように、何事も無かったかのように機能する眠らない街、ザナルカンドがそこにあった。

「ザナルカンド・エイブスのティーダじゃないか、朝からお熱いねえ」

ブリッツファンであろう、通りがかりの男がティーダとユウナをからかった。ハッと我に返りお互いの体を離す。

「…ここが、ここがキミのザナルカンド?」

ユウナが恐る恐る尋ねる。

「ああ、そうだ。ここがオレの育ったザナルカンド。ザナルカンドだ!」

何故?と思うより先に帰ることができた喜びに、「おいで!」とユウナの手を取り走り出したティーダは、途中何人かのファンに声を掛けられながら自分の家にたどり着いた。

「大丈夫?」

走り続けて息が上がってしまっているユウナにそれ程でもないティーダが声をかけた。

「ハァ、ハァ、だ…大丈夫…じゃないかも…」

苦しそうなユウナを、ティーダはいきなり抱き上げた。

「きゃっ」

短い悲鳴を上げ驚いているユウナをティーダは、新居に入る新婚さんみたいだろ?とからかってそのまま自分の家に入っていった。

「たっだいま~」

おどけた調子で言っては見ても、誰もいないのは分かりきったこと。

「一人暮らし?」

ティーダに抱き上げられたまま、ユウナが訊いた。

「そう、母さんが死んでからね」

事も無げに彼は答えた。だがその後に

「でも、アーロンが何かと面倒見てくれてたッス」

と、少しテレながら付け加えた。



ユウナをソファに下ろすと、ティーダはキッチンへ行ってミネラルウォーターのビンとコップを持ってきた。冷蔵庫から取り出したそれはよく冷えていた。

「何、それ?」

不思議そうにビンを見つめるユウナにティーダはあっさりと言った。

「水」

「みず?水って、川や湖の…あの水のこと?」

スピラでは水を人工的に精製したりしない。どこの土地の水もきれいで大抵は消毒しなくても川や井戸から汲み上げるだけで飲めるからだ。

「ザナルカンドではおいしい水は簡単に手に入らない。普通の水を機械で精製してこうやってビンに詰めて売ってるんだ」

コップに移したミネラルウォーターをユウナに渡し、自分はビンに口を付けて飲んだ。

「冷たい……」

その水を一口飲んでユウナが呟く。

「水を買うのも…機械が発達した、代償?」

機械を戒めてきたエボンの教えはやはりユウナの体に染み付いている。機械が悪い訳では無いことは、彼女もよく分かっているのだが。

そんなユウナにティーダが応えた。

「代償か。う~ん、そうかも知れないな。工場の排水のせいでザナルカンドの川の水は飲めないからな」

「…『シン』がいなくなって…機械が発達したら、スピラも汚れた世界になるのかな?」

ユウナが少し不安そうにそう言うと、ティーダが明るく言った。

「そうならないように、ユウナ達が守ればいい。スピラの自然を」

無意識に「自分達で」、という言葉を使わなかったティーダにユウナがまた不安そうに訊く。

「キミは?キミは一緒に居てくれないの?」

しかしその時、ティーダの答えをユウナは聞けなかった。ティーダの家のドアを激しく叩く音と、それに続く大声が邪魔をしたからだ。

「ティーダさん、ティーダさん。恋人ができたって、本当ですか?」

「何人も目撃者がいるんですよ、ティーダさんが女の子と抱き合っていたって」

「手を繋いで走っていたって」

「答えてくださいよ」

スポーツ雑誌の記者達だった。



「うわ、みつかった」

ティーダが、それでも余り困ったようには見えない表情でそう言った。だがここで取材を受けたらユウナの素性をどう説明するのか。本来、このザナルカンドの住人では無いユウナの素性を、それでも記者達は調べようとするだろう。そうなってはザナルカンドを案内するどころではなくなってしまう。

「逃げよう!」

そういうとティーダはユウナを連れてキッチンへ行った。ここには父ジェクトの頃から使っていた隠し通路があり、それはティーダを子供の頃からかわいがってくれている、ジェクトの旧友である『おじさん』の経営するスポーツ用品店の裏口の前に続いていた。

「ちょっと狭いけど、ガマンな」

こうして無事に記者達から逃れた二人は、スポーツ用品店で用意してもらった服に着替えた。服を用意してくれたおじさんは涙を拭きながらユウナに言った。

「あの泣き虫だったティーダにこんなにかわいい彼女が出来るなんて…おじさんは嬉しいよ」

その言葉にユウナは赤面し、ティーダは余計な事を、と、これまた赤面しながら怒鳴っていた。



そして今度こそ、誰にも見つからない様に街中を見て回った。

歩きながら口にするアイスクリームに、巨大なスクリーンに投影される映画。

ユウナにとっては初めてのことばかりだったし、ティーダにとっては久し振りで懐かしいことばかり。眠らない街ザナルカンドでの二人の時間は瞬く間に過ぎていった。



日が落ちて暗くなり始めた頃、ティーダはユウナをスタジアムへ連れて行った。

「試合、観るだろ?」

「うん!」

夜のスタジアムで応援するのはユウナの子供の頃からの夢だった。

「でも、一般席に一人でいるのはまずいよな」

――いつ記者に見つからないとも限らないし、熱狂的なファンに嫌がらせでもされたら大変ッス。

そこでティーダはチームマネージャーに事情を話し、チーム専属の女性ガードマンをユウナに同行させてもらった。





『ピィィィィィィィィィィ』

試合開始のホイッスルが鳴る。激しいボールの奪い合い。突き飛ばされた選手がフィールドの外、観客席に叩きつけられる。

「きゃあ」

思わず目を覆うユウナだったが、ティーダにボールが渡ったことを教えられると恐るおそる、目を開けた。

ボールを奪おうとする相手チームの選手をかわし、ティーダがゴールを目指してスフィアプールを泳いでいく。その姿にユウナの視線は釘付けで、最早回りの何ものもその視界には映らない。

と、その時一瞬目が合ったティーダがユウナに向かってポーズを取った。左手の拳を握り、目の前に掲げるいつものポーズ。その刹那、ファンの女の子たちが一斉に立ち上がった。ユウナの近くにいた女の子は皆、ティーダのそれが自分に向けられたものと思い込み歓声を上げる。

――ティーダって、ホントに凄い人気者なんだ…。

ユウナが呆気に取られているとスタジアム中から更なる歓声が湧き起こった。

『出た~~~!伝説のジェクトシュートだぁ!』

実況アナウンサーの興奮した声が伝えたとおり、ティーダがジェクトシュートをゴールに放った。ジェクトが姿を消してから10年余り、誰一人として成し得なかった技、ジェクトシュートを息子であるティーダが決めたのだ。

観客は大興奮し、ユウナも指笛を鳴らして応援する。



試合は勿論ザナルカンド・エイブスの圧勝だった。

そしてティーダは今夜の最優秀選手賞を獲得した。





試合が終わると女性ガードマンはユウナを選手控え室まで連れて行ってくれた。

「いろいろ、ありがとうございました」

礼を言うユウナにいつもポーカーフェイスのガードマンも思わず、どういたしまして、と微笑み返した。選手たちの一挙手一投足に素直に一喜一憂するユウナの純粋さに、女性ガードマンも久々に試合を楽しむことができたのだ。無論、周囲には気を配っていた彼女だが。



しばらく控え室の前で待っていると

「お先っ!」

ティーダの声が聞こえた。控え室の選手達に向かって軽く右手を挙げて挨拶をし、ティーダがユウナの待つ通路に走り出てきた。控え室の中では選手達が口々にティーダをからかう声が上がっている。

「泣かすんじゃないぞ~」

「お熱いね~」

意味の解からないユウナはティーダに何事かと尋ねたが、

「何でもないッスよ」

ティーダはそう言ってまともに応えてはくれなかった。

尤も、真面目に説明していたら、困惑するのはユウナだったに違いない。



先の女性ガードマンの誘導でティーダとユウナがスタジアムの裏口からこっそり出て行ったことに、記者たちもファンも気付かなかった。

『おじさん』のスポーツ用品店で元の服を受け取ると、二人は今度こそ堂々と表の道を歩いて行った。

「そういえば、ユニフォーム、預けちゃってたのに…?」

試合ではいつものユニフォーム姿だったティーダにユウナが訊いた。

「チームの控え室に予備があるっスよ」

そう言われて、ユウナは何もかもが便利なザナルカンドに改めて驚いていた。

「試合、どうだった?」

ティーダに訊かれたユウナは、あの興奮が戻ってくるような感覚を覚えてティーダお得意のポーズを真似しながらこう言った。

「最高っす」

そしてティーダがどんなにカッコ良かったか、どれだけの女の子たちがティーダの合図に興奮していたか等をティーダがテレてもういいよ、と言うまでしゃべり続けたのだった。





最高の時間を過ごしていた二人がティーダの家に帰ると一人の訪問者がその帰宅を待っていた。

「お帰り」

「祈り子さま!?」

それはベベルで会った、そしてティーダの前に何度か現れた、あの祈り子だった。


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