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2010-02-18(Thu)

FF10 Crimson Sky

「明日だ」

祈りの歌で『シン』を呼び寄せ攻撃する時を、アーロンはその一言で決めた。

もとより異存の無い彼らは、それを無言の頷きで了承した。



究極召喚なしでの『シン』との決戦。

歴代の召喚士やガードの誰もが成しえなかった未知の戦い。



「ゆっくり休んでおけ」

ユウナ達を導いてきた隻眼の男は再び短く言うと、ブリッジから去って行った。

「んじゃ、あたし達も休もうよ」

緊張に包まれていたブリッジの空気を一掃するかのように、にぎやか担当の彼女は明るく振舞う。

不安、緊張、恐怖、期待、願望。

『シン』との、そしてエボン=ジュとの戦いを前に、様々な感情が入り乱れる彼らの胸中。

「ゆっくり休むなんて、できそうにねぇけどな」

「それでも、少しでも横になっておく方がいいわよ」

口々に言いながら、彼らはブリッジを後にした。翌日に控えた決戦を前に、複雑な感情を持て余したまま。







飛空艇の甲板からは、夜空の星が手を伸ばせば取れるような近さに感じる。

その星々の海に吸い込まれそうな感覚に身を委ね、ユウナはゆっくりと瞳を閉じた。

――総てが明日、明白になる。

ユウナが抱き続ける不安も、戦いの結果も、総てが明日、判る。

だがそれにはティーダの父であり、ユウナの父のガードであったジェクトを倒さねばならない。

『たとえ『シン』がジェクトさんでも…『シン』が『シン』である限り…』

――倒さなくてはならない。

そう決意していたのに、直前になって気持ちが揺れるのは何故なのだろう。

――ティーダ…

ある日突然ビサイドの海に現れて、ユウナと行動を共にすることになった少年の顔が、その時ユウナの脳裏に浮かんだ。

この世界で彼と繋がるのは、ジェクトだけ。そのジェクトを倒してしまったら…

『ボク達の夢は…消える』

突然その言葉を思い出し、ユウナの胸がズキンと痛んだ。

ベベルの祈り子の間で、祈り子はティーダにそう告げたのだ。そして『ごめん』、とも。

――あれは…どういう意味なんだろう…

ティーダが何も言ってくれないことが、ユウナには辛い。

『何でもない』

そう言って誤魔化したティーダ。だが本当に何でも無いのなら、話してくれてもいいのではないか。

ティーダが何かを隠していることはユウナにも分かっている。つい先日まで、自分がその立場にあったのだから。

究極召喚を使って『シン』を倒したら、召喚士は…死ぬ

その事実を、ユウナはずっとティーダに黙っていたのだから。

「そんな重大な事実だったら…やっぱり言えないよね…」

そう呟いて、恐ろしくなる。

――『シン』を…、エボン=ジュを倒したら、ティーダが…?

ユウナは勢いよくかぶりを振った。だが一度芽生えてしまった不安は簡単には拭えない。

ユウナは恐怖に震えた身体をギュッと抱きしめた。



「何、してるッスか?」

「えっ?」

驚いて振り返ると、そこにはティーダが立っていた。

「ティーダこそ…」

言いながら、瞳の端に浮かんだものを、ティーダに気付かれないように素早く拭う。

「オレは、星を見に来たッス」

「星?」

「ああ。当然だけど、ザナルカンドとスピラの星は違うからさ。ゆっくり見ておきたいと思って。ユウナは?」

「あ…、えっと…」

まさかティーダのことを思っていたなどと言えるはずも無く、ユウナは言いよどんだ。するとティーダはゆっくりとユウナの傍に歩み寄り――

「泣いてた?」

突然、そう尋ねた。

「ユウナの目、赤いッス」

「そんなこと…!」

慌ててティーダに背を向けて、ハッとする。

いくら星がたくさん輝いているからと言っても、この暗さの中ではユウナの瞳の色まで見えるはずもなく――

「やっぱり、泣いてたッスね?」

ティーダが笑いを堪えるように、口元に手を当てた。

その仕種に気付いて、ユウナはティーダに猛然と抗議する。

「まだ泣いてないのに、目が赤いなんてウソを…」

だがその言葉が真実の総てを語っていて――

「これから泣くところだった?」

ティーダは更に余裕の微笑を浮かべた。

「…いじわる……」

こういう会話になると、ユウナはティーダに敵わない。

抗議の勢いを殺がれて俯いたユウナの瞳から、その時光るものが一粒、零れ落ちた。

「ほ、本当に泣いちゃったッスか?」

からかいが過ぎたかと後悔しつつ、慌てたティーダはそれまでの微笑をすっかり引っ込めると、代わりに困惑の表情を浮かべた。俯いてしまったユウナに掛ける言葉も見つからず、ただただオロオロとユウナの周りを歩き回る。

「…泣いてないよ」

「えっ?」

クスクスと笑う声が小さく聞こえたかと思うと、ユウナが顔を上げた。その表情にイタズラっ子のような微笑を湛えて。

「ウソ泣き…?」

だがユウナは黙ったまま小さく首を傾げるばかりで真実を語らない。

本当は、今にも泣き出しそうな気分のところをティーダの態度に救われていた。だがそんなことを面と向かって言えるはずも無く、ユウナは無言の微笑で誤魔化していたのだった。

「なんでもいいや。ユウナが笑ってるならさ」

自分がユウナを泣かせたのではないと知って、ティーダはホッと胸をなでおろしていた。





「明日…だね」

「ああ。明日だ」

甲板に腰を下ろし、二人は星を眺めた。

どこからか、『シン』――ジェクトもこの星々を見ているのだろうか。10年前から続く闘いに決着をつけるために、彼らの訪れを待ちながら。

「大丈夫?」

ユウナは傍らのティーダを覗き込むようにして尋ねた。幼い頃に別れた父と再会する事が即ち戦うこととなったティーダ。

「ユウナこそ、変な気、遣うなよ?」

「え?」

ティーダは優しく微笑むと、ユウナを真っ直ぐに見つめた。

「『シン』は『シン』…だろ。ユウナにとって、スピラにとって、倒さなきゃならない存在。『シン』がオレのオヤジだからって、今になって迷うなよな」

「うん…」

まるでユウナの心の中を見ていたようなティーダの言葉。

だがそれは、きっとティーダ自身も同じような迷いを抱えているからこそ分かるのだろう。

「ティーダこそ、我慢しないでね」

「え?」

「無理して強がらないで欲しいんだ。みんなの前では強がっても…、私には……」

言いながら俯いたユウナの頬が、薄っすらと朱に染まっている。言い馴れない言葉を、ティーダの為に必死になって紡いだのであろうことは、ティーダにも解かる。

「大丈夫ッスよ、ユウナ。オレは、この為にスピラに来たんだからさ」

――えっ?

ティーダの言葉が気にかかり、ユウナはそれまでの恥ずかしさを忘れて顔を上げると、ティーダを見つめた。

「この為?」

「あ、何でもないッス。それよりさ、スピラのみんな、祈りの歌に協力してくれるかな?」

ティーダは咄嗟に話を変えた。

『キミは夢を終わらせる夢』

祈り子に告げられたそれはユウナには知られたくない事実。

エボン=ジュを倒して夢を終わらせることは、ティーダ自身も消え去ること。それはティーダも覚悟していたはずだった。



その時、ユウナが差し出した手でティーダの手を包み込んだ。

「無理しないで」

ユウナの極自然なその仕種に、ティーダは自分の手が震えていたことに気付かされた。

「誰だって怖い。今までに経験したことの無い闘いに挑むんだから」

「ユウナ…」

ユウナの手のぬくもりに触れ、ティーダは張り詰めていた心が解れていくのを感じた。

――たとえ自分が消えることになっても、ユウナには何も知られたくないし、知られてはならない…。

そう思い、気負っていたそれまでのティーダ。だが、その時はすぐそこまで迫っている。明日、『シン』を、そしてエボン=ジュを倒したら、ティーダは消える。ユウナのぬくもりに触れることは、二度と叶わない。

「あ…れ……?」

ティーダは自分の瞳から零れているものに気付いた。

「あはは…はは……、なんか変だ。オレ…」

慌ててそれを拭うと、ティーダはユウナの視線から逃れるように俯いた。拭ったはずの涙が再び零れ、ティーダの足元に小さな円を描いていく。

そんなティーダを、ユウナは横からそっと抱きしめた。

「私も…怖いよ。ティーダだけじゃ、ないから…」

「ユウナ…」

ユウナの優しさに甘えてしまいたい衝動に駆られ、ティーダは身体を僅かに捻るとユウナの身体を抱きしめた。

手だけだと思っていた震えは全身を侵し、涙も止め処なく溢れる。

『すべてが終わったら………僕たちの夢は、消える』

自分が消えてもユウナが助かるなら、それでいいと思っていた。なのに…

――最後じゃなくて…、ずっと…

その約束を守れないことが辛かった。







翌日、飛空艇は予定通りにスピラ中を飛び回りながら、祈りの歌を歌った。

寺院の力なのかシェリンダの努力の賜物なのか、スピラの民は皆、祈りの歌を歌っていた。



「ユウナ…、あのさ…」

ティーダはブリッジでスクリーンを見つめるユウナに話しかけた。

「昨夜は…、その…」

男として、ユウナを護るべきガードとして、恥ずべき行動を取ったと後悔するティーダは何とかしてユウナに謝りたいと思っていた。だが――

「昨夜は、ありがとう」

「え?」

逆に礼を言われてしまい、ティーダは戸惑った。そんなティーダを真っ直ぐに見据え、ユウナは微笑んだ。

「私も、もう迷わないよ。『シン』は『シン』…だよね。キミに言われて、覚悟が決まったんだ。だから、ありがとう」

「あ、ああ」

ティーダは納得できたような、できないような、複雑な心境に陥った。それでも、ティーダ自身ユウナに告げておかなければならないことがあった。

「あのさ」

「ん?」

「オレもさ、吹っ切れた。今は何も考えず、『シン』とエボン=ジュを倒す。それだけッス」

「うん」

互いの胸のうちに残っていた迷いを断ち切り、二人は心の底から微笑みあった。が、その時、

「『シン』!」

リュックの兄の叫びと共に、飛空艇のスクリーンに『シン』の巨体が映し出された。祈りの歌に反応し、姿を現したのだ。

「おっし、行くぞ!」

ティーダの掛け声と共に、皆は一斉に甲板に飛び出して行った。







数時間後、両の腕をもぎ取られた『シン』はベベルの都にその巨体を沈めた。

だがこれで終わりではない。

『シン』はまた、復活する。『シン』を鎧として纏うもの――エボン=ジュを倒さない限り、『シン』は何度でも蘇る。



「おっし、今のうちに主砲の修理だ!」

『シン』を倒せたのではないと知ったシドは、『シン』が動きを止めたこの隙を利用して、壊れた主砲の修理に取り掛かった。

一方ティーダ達は、『シン』が動きを止めたために一時的な休息を与えられた。『シン』が復活するまでの、束の間の休息。それでも彼らにとって、それは貴重な時間だった。



ブリッジから離れ、甲板に出たユウナは夕焼けの空を見つめていた。

「ジェクトさん…苦しいのかな」

その背後に現れた気配がティーダだと気付いて、ユウナは振り返らないまま呟いた。

「終わらせよう、早く」

ティーダは後姿のユウナに言葉を返した。

「祈り子も協力してくれるって言うしさ」



そんな会話の中で気付いたのは、エボン=ジュを倒すたった一つの方法が、途轍もなく残酷であるという事実。

共に闘ってきた召喚獣達の総てにエボン=ジュを乗り移らせ、倒す。そして行き場の無くなったエボン=ジュを――

「やらなくちゃ…、ならないんだよね」

「そう…だな」

その時、ユウナの中に一つの疑問が芽生えた。

「……ねえ、エボン=ジュは『シン』の中で何を召喚しているのかな」

『シン』を鎧として纏うエボン=ジュ。強大な鎧のその中で、彼が召喚し続けるもの、それは――

「祈り子の…、夢」

呟くように応えて、ティーダは黙り込んでしまった。

彼自身、祈り子の夢の存在であり、エボン=ジュが召喚し続ける世界の住人。実体を得てスピラに現れたのだとしても、夢が消えれば――

「キミは…消えないよね」

消え入るような声でのそれは問いかけではなく、ユウナの願望。

「ティーダ…」

ユウナはゆっくりと振り返るとティーダに歩み寄った。

黄金に輝く彼の髪は夕日に照らされて燃えるような色を映しているのに、俯いた彼の心はその対極の色に染まっているかのようだった。

昨夜流した涙によって、ティーダの迷いは消え去ったはずだった。なのに、その時が近付いていることを感じるのが、辛い。

総ての終わりに、夢は…消える――。

そのことを意識するのは、苦しかった。

それでもティーダは顔を上げてユウナに微笑むと、力強く応えた。

「大丈夫。オレはずっとユウナの傍にいる」

「ずっと?」

「ああ、ずっと…」

――たとえ実体を無くしてしまっても…、どんな姿になったとしても…、ずっと…ユウナの傍に……。

それは昨夜、ユウナのぬくもりを感じたときに決意したことだった。





「ユウナんたち! どこにいるの!? 『シン』を見て!」

艦内のスピーカーからリュックの緊迫した叫び声が流れ、ティーダとユウナは飛空艇の前方に視線を移した。

「やっぱり、復活したッス…」



夕日を背にして舞い上がった巨体は、その背に炎の色を映しながら真っ直ぐに飛空艇を見据えていた。

その姿を目にした地上の人々が恐怖に慄いている様は『シン』ジェクトの意識の片隅でも捉えられているのに、最早彼にはそのことを気遣うことができなかった。

今の彼にとって、生あるもの、そして形あるもの総てが破壊の対象となっていた。

『シン』となって10年。

人であった頃の心は、既に残り僅かとなっていたのだ。



「待ってろよ、オヤジ。すぐに行くからな」



二人は力強く頷き合うと、ブリッジに向かって駆けて行った。








太陽祭なるものの存在を知って、2日で書き上げたものです。決戦を前にしたティーダとユウナの、特にティーダの迷いを書いてみたいと思っていたのですが、泣かせてしまいました。ゲーム中の話だと甘い二人が書けなくて残念です。

 2003.07.15作 2003年「太陽祭」出品 2003.09.21 太陽祭終了につき、サイトにUP

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