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2010-08-20(Fri)

二つの故郷-いつか帰るところ 3

『あのさ、ガーネット。ちょっと話があるんだけど…』

『どうしたの、ジタン?改まって』

『うん、シドのおっさんがさ…』

『もう、ジタンったら、伯父様のこと、そんな呼び方をするのは良くないわ。あなたは今、リンドブルムの…』

『解ってるよ。ここでだけだから』

『…そうね。ジタンの口から『シド大公』なんて聞かされたら、笑ってしまうかもしれないものね』



そんな会話を交わしたのはひと月ほど前のことだった。

ガーネットの休日に合わせてジタンがアレクサンドリアを訪れ、ガーネットの私室でのんびりと過ごしていた時。

『シドのおっさんがさ、直々に調査団の結成を命じたんだ』

『調査団?何の?』

『…テラ』

『テラ…?』

『ああ。テラにはガイアの創世やテラとガイアの関わりについての手掛かりがある。それはウイユベールでオレにだけ解った言葉が示していた。おっさんはそれをもっと深く調べたいらしいんだ』

『…あなたも行くの…よね』

『ああ』



その時は準備の都合で出発の予定は未定だと言っていた。そしておおよその予定が知らされた時、出発はふた月ほど先になるとのことだった。

それが突然早まりアクシデントが発生した。

「…無線連絡、無いみたいね」

エーコがそう言ってドアの方向を見やった。そろそろ『黒魔道士の村』に着こうとしているのに、ブランクは何も言って来ない。

「輝く島の周辺は磁場が発生していて、無線は通じにくいってジタンから聞いたことがあるわ」

ガーネットがエーコに言った。

その時ガーネットはただ事実を告げただけであったのだがエーコはあることに気付いた。

――無線機なら『黒魔道士の村』にもあるのに連絡が取れないってどういうこと?本当に連絡は取れていないの?

想像するに、今現在の状況をブランクが伝えてくれないということは通じている無線から知り得た情報が残酷なものである為に言いあぐねているのか、あるいは本当に無線が繋がらない為に伝える情報が皆無であるかのどちらかであろう。しかし、敢えてガーネットを同行させている理由を考えた時、前者である可能性は格段に低くなる。であれば、後者であることは間違いない。

そこから導き出せる結論として、無線機を使える者が皆『黒魔道士の村』を留守にしているということが考えられる。

そしてそれは、生死不明とされる人物の消息が依然不明のままだということであるのだ。

けが人については、軽傷である為に調査船に残っているのか、口も利けないほどに重傷で『黒魔道士の村』にいるのかのどちらかであろう。

黒魔道士達はなぜか無線機を嫌い、その使い方を覚えようとはしなかったのだ。

「ねえ、エーコ?」

「な、何?」

できればガーネットには知られたくない事実を考えていたエーコは驚いて返事をした。しかしガーネットは何も気付いていないように言った。

「『黒魔道士の村』に行くのは久しぶりね。前に来てからもう1年が経っているのよ」

「そ、そうね。エーコは半年前に来たけど…。みんな、以前より言葉を覚えたのかしら?」

エーコがホッと胸を撫で下ろしながら言ったのに、ガーネットはエーコを驚愕させる言葉を返した。

「生死不明の人の捜索、難航しているのね」

「ど、どうして?」

「だって、無線は『黒魔道士の村』にもあるもの。連絡が取れないのはミコトもジェノムも、皆、不明者の捜索に協力しているから…でしょ?」

驚いて、エーコはガーネットの表情を覗き込んだ。しかしガーネットはいつもの豊かな表情を闇のベールで覆い隠してしまったかのように無表情だった。

「ガーネット…」

心配したエーコが話し掛けた時、船室のドアをノックする音が聞こえた。

「はい?」

振り返ってドアの方向に返事をすると、ブランクの声が返ってきた。

「着陸するぞ」

ドアを開けて顔を覗かせるかと思われたブランクは、結局その一言だけを伝え、ドアを開けることなく立ち去った。

「…ガーネット、ブリッジに行こう」

そう言って、エーコはガーネットの手を取ると船室のドアを勢いよく開けた。






『黒魔道士の村』は静かだった。

人の気配の無いその村の中を歩き、二人は真っ直ぐミコトの家に向かった。

「留守番を残していかないなんて、無用心ね」

ミコトの家にある無線機の前で、ガーネットがそう言った。緊急事態にはおよそ似つかわしくない言葉。しかしガーネットの心情が理解できるエーコは何も言わなかった。

「ねえ、ガーネット。もしかしたら宿屋に誰か留守番の人がいるかもしれないから、行ってみよう」

そう言って歩き出した二人を、バクーが少し離れた場所から見つめていた。

シドとブランクは『黒魔道士の村』に人気ひとけが無いのを確認すると再び飛空艇に乗り込み、輝く島へ向かう為の船が停泊している筈の海岸へ向かった。それは飛行中の飛空艇から『コンデヤ・パタ』のドワーフに頼んで用意させたものだった。

コンデヤ・パタの北東に位置するダイシュノーズ海岸に、ドワーフ所有の船は停泊していた。

「操船できるか?」

シドが船を見ながらブランクに確認した。そして訊かれたブランクは不敵な笑みを浮かべるとこう言った。

「オレに動かせない船はありませんよ」

シドはふっと笑うとドワーフが持っていた『船の賃借に関する契約書』にサインした。そして船に乗り込み、ブランクに操船を任せると自分はすぐに無線の周波数を調査船のそれに合わせ、交信を試みた。しかし応答は無く、やはり直接向かうしかないと判断し、ブランクに船の速度を上げるように言ったのだった。



誰もいないと思われた『黒魔道士の村』の宿屋に、店番の黒魔道士がいた。そわそわと客室の前を行ったり来たりしている。

「どうしたの?」

エーコが尋ねると、黒魔道士はホッとしたようにエーコ達の傍に歩いてきた。

「こんにちは、エーコさん。実は怪我をした人の御世話をするようミコトさんに頼まれているのですが、まだ意識が戻らないので、心配しているところなんです。…ところでこちらの方は…あ?」

黒魔道士の話を聞き終わらないうちに、ガーネットが客室に向かって走り出した。

「あ、お客様?」

「ガーネット!」

創られてから1年経っていないその黒魔道士はガーネットの顔を知らなかった。しかし話には聞いていたらしく、エーコの声を聞いて独りごちた。

「ああ、あの方がジタンさんの…、ガーネット様ですか」と。



客室のドアを開けると、黒魔道士が3人、負傷者の看病をしていた。

「ガーネットさん。あ、エーコさんも…」

ガーネットの後を追ってきたエーコも、その部屋に足を踏み入れた。

「…リンドブルムの兵士…?」

ベッドに横たわっていたのはリンドブルムの兵士2人だった。その2人を見つめ、ガーネットは呆然としていた。苦しそうな呼吸をし、全身に巻かれた包帯からは血が滲んでいる彼らの姿は、生死不明とされているその人物の生存を絶望的にするものであった。

「…もう一人、怪我人がいるって聞いてるけど…?」

兵士達の姿に驚きながらもエーコが尋ねた。すると看病をしていた黒魔道士が言った。

「その人なら軽傷だったから…」

「うん。さっきビビさんに会いに行くって言ってたけど…」

その言葉を聞いて、エーコとガーネットは心臓が高鳴るのを感じた。ビビに会いに行く…。そんなことを言う人物、それは…。

「ガーネット、何してるの?早くお墓に行って!」

重傷の兵士の傍から動こうとしないガーネットを見て、エーコがそう言った。しかしガーネットは持っていた荷物から薬草を取り出し、兵士の看病を手伝い始めている。

「ガーネット?」

彼がいるであろうビビの墓に行こうとしないガーネットに、エーコが再び呼びかけた。それでもガーネットは動かず、震える声で言った。

「その人は軽傷で、歩けるんでしょ? だったら…、この人達を治す方が先だわ」

そんなガーネットにエーコはギュっと下唇を噛むと意識して感情を抑えた声を出した。

「ガーネット、怖いの?」

「え?」

「重傷者が出て、生死不明…行方不明者まで出ているのにジタンは無事だった。そのことできっとジタンは自分を責めてる。そうでしょ?」

最後の問い掛けは傍らの黒魔道士に向けたもの。そして黒魔道士の3人は黙って頷いていた。

「自分を責めて、傷ついてるジタンに掛けてあげる言葉が見つからない、ジタンのそんな姿を見たくない…。そんなこと、思っちゃってるんでしょ? だったら、ガーネットの代わりにエーコが行く。ジタンの傍で、ジタンの支えになってくる!」

そこまで言って、エーコは深く震えた息をついた。

「いいの? その役、エーコが取っちゃってもいいの?」

「……」

しかしガーネットは凍りついたようにその場に佇み、じっと兵士達を見つめている。

そして暫しの沈黙の後、エーコが今にも泣き出しそうな、だが心の中ではとっくに泣いているであろう声で言った。

「…ダメなの、知ってるくせにね。ジタンの支えになれるのはガーネットだけだって、わかってるのにね。何でエーコじゃダメなの? 行きたくないって言ってるガーネットより、支えてあげたいって思ってるエーコの方がダメなんて…、不公平よ…」

「エーコ…」

ガーネットが振り返ると、エーコは俯いて肩を震わせている。

「…ごめんなさい、エーコ。エーコの言うとおりよ。ジタンのこと、気になるのに…、私が支えてあげたいって思うのに…、それ以上に怖かったの。傷ついているジタンを見るのが怖かったの。でも…」

そう言ってガーネットは手にしていた薬草を黒魔道士の一人に託すと言った。

「ありがとう、エーコ。行ってくるわね」

そして怪我人を気遣い足音を立てないように、それでも急いで部屋を出て行った。

そんなガーネットの後姿を見ながら、エーコが黒魔道士達に言った。

「さあ、我が国の優秀な兵士達を治療するわよ。手伝って頂戴」

それまでとは打って変わったエーコの元気な声に、3人の黒魔道士達は顔を見合わせた。



ガーネットはビビの眠る丘を目指して走っていた。

――ジタンの泣く場所は私の胸であって欲しいって、思ったのに…。あの人が傷つく事があれば、私が癒してあげたいと思っていたのに…。

あの過酷な旅が終わり、女王という孤立無援の地位を甘受せざるを得なかったガーネット。しかし旅の間は常に独りで…、仲間がいても、常に独りで全てを成し遂げようと虚勢を張っていた彼女が今ではジタンという最も頼れる男性の存在を得た。同時に心の底から信頼できる臣下、スタイナーやベアトリクス達に囲まれ、知らず知らずのうちに守られるだけの王女の頃の自分に、その気持ちが戻りつつあった。まして、イーファより生還してから今まで、ジタンがガーネットに弱く傷ついたところを見せたことは無かったのだから。

――守られるだけじゃない。誰かを守ってあげる強さを、私は身に付けたと思っていたのに…。一番強がっていて、そのくせ人一倍弱さを秘めているジタンを、私は守ってあげたいと思っていたのに…。

あれは正にテラでのこと。真実を知らされ、己を見失っていたジタンを仲間達は助けた。勿論、ガーネットも。

――あなたは独りじゃない。今は別々の路を歩む彼らだけど…、私はあなたの傍にいる…。

人気の無い村の中を走りながら、ガーネットの頬を伝い落ちる涙は風に乗って、キラキラと光りながら舞い落ちていた。


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テーマ : 二次創作:小説
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