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2010-08-20(Fri)

二つの故郷-いつか帰るところ 2

リンドブルム巨大城。

シドの指揮の元、飛空艇の開発・改良が行なわれている大工場を有し、その内部の至る所に機械仕掛けの装置が備え付けられている巨大な城。

「お父さん、ガーネット」

リンドブルム城でエアキャブを降りると、そこにはエーコが待っていた。

「おお、エーコ。飛空艇は…、エリンはどうした?」

シドがエーコに訊くと、その利発な娘は即座に応えた。

「発進準備は整ってるわ。エリンもいつでも出発できるからって言ってたわ」

ドッグまで走っていく間に、シドとエーコが交わした言葉。それからも解かるように、エーコもこの緊急事態らしきことを把握しているようだった。

「あなた、エーコ、これを…」

ドッグで待っていたヒルダがそう言って手渡したのは彼女特製の薬だった。聖魔法を操る彼女のもう一つの才能。それは薬の精製だった。

「あなたの仰ったとおりに作りましたわ。お役に立てればよいのですけれど」

そう言って、しかしヒルダは小首を傾げて言い直した。

「いいえ、役に立たない方がよろしいですわね」

その言葉の真意を質そうとしたものの、ガーネットもバクーもブランクも、シドとエーコに急かされ飛空艇に乗り込むことを余儀なくされた。そして手を振るヒルダと言葉を交わす事も出来ぬまま、飛空艇はリンドブルムの巨大城を後にしたのだった。



「一体どういう事なんだよ?」

ブランクがエーコに訊いた。シドはエリンと共にブリッジに立っているし、バクーも黙ってその手伝いをしている。

「もしかして、ジタンに何かあったの?」

ガーネットもエーコに尋ねるしか、他に不安を払拭する手立てが無い。

「あ、あのね。まだよくわかってない事の方が多いんだけどね…」

エーコはこうなるまでの経緯を話し出した。

それによると、城下町での観光を終えてアジトに向かったガーネットと別れて城に戻っていたエーコとシドの元に、テラの調査に記録係として赴いていた文官の一人から無線通信が入ったのだという。

「で、その無線は何て言ってきたんだよ?」

ブランクが焦燥感を抑えきれずに、噛み付きそうな勢いでエーコに尋ねた。

「い、今説明するから、そんなに興奮しないでちょうだい」

そう言って、エーコは話を続けた。

「無線通信の言葉をそのとおりに言うからね」

そう前置きして、エーコはこう言った。

「『調査団は輝く島近海にて足止め状態にあり。テラへの扉は我らを拒み、本日、突発的な事故により生死不明の者、1名。怪我人3名が…』って、そこで切れたの…」

――事故…生死不明…。

ガーネットは崩れるようにその場に座り込んだ。

「ガーネット、大丈夫?」

「え、ええ…」

しかしガーネットの頬からは朱みが消え、白皙の肌は益々その白さを主張していた。

「まだその生死不明者ってのがアイツだって決まった訳じゃ無いんだから、しっかりしろよ」

ブランクがそう言ってガーネットを抱き起こした。しかし3人の心の中には同じ言葉が渦巻いている。

――危険を冒すとすれば、それはやはりジタン…。

「とにかくね、その不明者と怪我人のことを詳しく知りたいから確かめに行くって、お父さんが…」

そう言ってエーコはシドを見やった。しかしシドはバクーと何やら話し込んでいてエーコ達の方を見ようとしなかった。

「じゃあ、今この飛空艇が向かっているのは…?」

「そう、輝く島、…って言いたいんだけど飛空艇では近づけないから、一度『黒魔道士の村』に行くわ。怪我人がいるのなら、『黒魔道士の村』に運ばれるはずだし、場合によってはエーコ達も船に乗り換える必要もあるでしょうから」

エーコはこれからの行動を説明した。しかし、さらりと語った言葉の中にガーネットを更なる不安に陥れる要因が隠れていた。

――場合によって…。

それは不明者がジタンであったら、ということ。

「とにかく、ガーネットは船室で休んでて」

顔色の優れないガーネットを心配し、エーコがそう言った。

「だったら、エーコも一緒に付いててやれよ」

ブランクが言い、エーコもガーネットを一人にする不安からそれに従った。

「…無線連絡が入ったら、エーコにも教えてね」

ブランクに頼み、エーコはガーネットと船室に入っていった。



「それにしても…」

その時、バクーとシドの会話がブランクの耳に届いた。

「それにしても、大公さん。アンタも思い切った行動を取ったもんだな…ヘブシュン!」

確かにそうだ、と、ブランクも思った。

たかが臣下が行方不明だというだけで、一国の大公が自らその調査に乗り出すなど前代未聞だ。ましてや対外的には直接関係の無い隣国の女王までも同行させているのだ。

「こんなことが口うるさいアレクサンドリアの門閥貴族どもに知られでもすれば、アンタの立場はマズイことになるんじゃないのかい?」

「ふん、おまえさんまでオルベルタと同じことを言うのじゃな」

シドは不機嫌さを隠そうともせずにそう言った。それはシドが行動を起こすにあたって、オルベルタとひと悶着あったであろうと思わせる会話だった。

そもそも、国を統べる立場にある者が不確実な情報に基づいて行動する事ほど危険なことは無いのだ。そして無論、そのことが解からないシドでは無いはずだった。だが、敢えて動いたこの無謀な大公は、その性格ゆえに臣民からの人望が篤いのも事実だった。

「オルベルタの大臣さんとどうやりあったのか、話してみなよ。大公さん」

バクーに言われ、愚痴を零したい気分を抑えていたらしいシドは口を開いた。

「じゃから、おまえさんと同じことを言われたんじゃよ、バクー」

オルベルタは先ほどバクーが言った、その言葉と寸分違わぬ意味の文句を言ってのけた。しかしシドも退かなかった。

『調査団はワシの勅命で特別に組織されたのじゃ。その行動に責任を持つのはワシの、当然の責務じゃ。ましてやジタンに何かあったとなれば、ワシはガーネットに申し訳が立たん。ガーネットでっているアレクサンドリアの国政にも影響があるのは必至じゃからな』

『でしたら尚のこと、大公にはこの地にお留まり頂きたく存じます。そしてガーネット様にも内密におかれるがよろしいでしょう。輝く島での事故らしき報告の確認であれば外務尚書を以ってその任に当たらせれば良いことでございます。大公自らがお運びにならずとも…』

『ワシはヤツを買っておるのじゃ!』

オルベルタの静かな物言いとは対照的な声が彼の言葉を遮った。オルベルタの意見は正論であり、反論の余地は無い。なればそれを封じる手段は正論ではなく…。

シドは呼吸を整えると静かな口調で話し出した。

『ワシはジタンを買っておるのじゃよ、オルベルタ。ただの一部下としてではなく、この大陸の…、いや、ガイアの未来を託せる器を備えた男だと思うからこそ、その安否をこの目でしかと見届けたいのじゃ。こんなことで自身を損なうアヤツでは無いということをな』

『大公…』

シドがジタンに入れ込んでいるのはオルベルタも熟知している。悪霧に覆われたガイアの危機を救った8人の勇者達。中でもジタンの活躍はオルベルタも一目置いていた。ましてやシドはそんな彼らと行動を共にしていた時期があるのだから無理も無い。

『のう、オルベルタ。そちの申すことは正論じゃ。しかし正論だけでは人は動かせぬし国も立たぬ。それにの、時に人の思いは正論では覆せぬ大きな力を持つのじゃよ。解かってくれ…、とは言わぬ。目を瞑ってくれぬか?』

ガイアにある国々が平穏を保つ為に、まずはこの霧の大陸内に存立する三国の結束こそが重要である。だがしかし、そのいずれかが傾くような事態が起きればその均衡は崩れ、野心を持ってその覇権を狙う輩が現れるだろう。何時の世にもそういった野心家はいるものなのだ。

三国が一、リンドブルムにはシドを補佐する優秀な家臣の存在がある。片やブルメシアもまた、若輩の王を補佐するに足る充分な力量を備えた竜騎士がいる。とどのつまり、その存在自体が一番危うい国がガーネット一人の力を頼りとするアレクサンドリアなのである。それが解かり過ぎているからこそ、今、あの国を揺るがす事態を引き起こす訳にはいかなかった。

『ジタンがどうあれ、ガーネットにはアヤツの行方を知り、見守る権利があるのじゃよ。万が一の事態になったとしても、それを他人から聞かされるより自らの目で耳で真実を知ることがガーネットの為でもあるのじゃ』

『……』

オルベルタは反論しなかった。

シドの考えに共感しながらも、敢えて正論を以ってシドの行動を諌めねばならない立場の彼も、当然ジタンをはじめとする調査団の安否を気に掛けているのだ。彼にとって、シドが行くことを黙認することは初めからの予定行動であった。

オルベルタは黙ってシドに深々と頭を下げると自らの役割を成し遂げるべく、大公の私室を後にした。大公の留守を取り繕い、その代理の任を果たす為に。



「辛いところだな…」

聞き終えたバクーがそう感想を洩らした。

「大公という立場はそんなもんじゃよ」

シドが溜息混じりにそう言ったのに、バクーは「ワッハッハッハ」と、豪快に笑って言ったのだ。

「大公さんのことじゃねぇよ。大公さんと同じ気持ちでありながら、敢えて憎まれ役を演じなけりゃならんオルベルタの大臣さんのことを言ったんだよ…ヘブシュン!」

一瞬、反論しかけたシドだったが、ふっと短く嘆息するとポツリと言った。

「オルベルタは得難い人材じゃよ」と。


空は気持ちよく晴れ、飛空艇は順調に飛行を続けている。海上を飛ぶその船から見えるのは、タンタラスのアジトから見た、あの海だった。

船室の窓からその海を見下ろし、ガーネットがポツリと言った。

「ジタンだと…思う?」

「えっ?」

「生死が不明だっていう人、やっぱりジタンなのかしらね…」

嘗てジタンがガーネットと出会う以前にアジトのあの窓から見ていたという海。薄暗い小さな部屋で、彼は何を思い何を求めてこの海を見ていたのだろうか。

故郷への思慕をその胸に抱き、記憶の中の蒼い光を追い求めていたのだろうか。

だとしたら…。ジタンは無理をしてでもやっと見つけた故郷に帰ろうとするのではないだろうか。

「…ネット、ガーネットったら」

「え?」

「え、じゃないでしょ?ガーネットったらエーコに話し掛けたくせに、エーコの言葉には上の空なんだから」

「あ、ごめんなさい」

しかし謝った言葉さえも心もとないものだった。

「もう、ガーネット!不明者がジタンだなんて考えないの!イーファからだって生還したジタンが簡単に…」

そこまで言ってしまってから、エーコは慌てて自分の口をその手で塞いだ。ジタンの生死不明という事態には前例があるのだ。クジャを助ける為に暴走するイーファに飛び込んで行ったジタンはそのまま生死も解からぬまま捜索も難航し…。結果的に生還したものの、それまでの時間はガーネットにとってとてつもなく長く苦しいものだったに違いない。

「あ、あのね、ガーネット…」

必死に言葉を探したエーコだったが、聡明な彼女もこの時ばかりは紡ぐ言葉が見つからなかった。

「いいの。私の方こそごめんなさい。多分、疲れたのだと思うわ。何でも悪い方向に考えてしまうのって」

そう言って、ガーネットは再び窓から海を見つめ、ポツリと言った。

「ジタンは無事よね」

ガーネットの言葉にエーコが満面の笑みを浮かべて応えた。

「うん、絶対に大丈夫よ」

その時、窓の下に見えていた景色が海から陸地に変化していった。

「…もうすぐ、会えるのよね。ジタンに…」

――怪我をしているのなら私が治してあげる。生死が不明だと言うのなら、どんな手段を使ってでも見つけ出すわ。

ガーネットは心の中でそう叫んでいた。

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