FC2ブログ
2010-08-20(Fri)

二つの故郷-いつか帰るところ 1

「ダガーも泣きたいときは泣いていいんだぜ?いつでもオレの胸、貸してやるからさ!」

「……あ、ありがとう……ねぇジタンは?ジタンはそういう時、どうするの?」

「もちろん、ダガーの胸を借りるわけさ!」

「……もぉ!」

「あれ?だめ?」





あれは、マダイン・サリでの会話だったわ。

あの後、すぐにエーコの悲鳴が聞こえて…、結局はぐらかされて、そのままね。

ジタンったら、自分の内面を知られるのがキライだから、なかなか本心を見せてくれないのよ。

でも…、本当に泣きたい時って、男の子でもあると思うのに…。

ジタン、泣く場所があるのかしら?



執務の途中であるのに、そんなことを考えてしまうのは先ほど受け取ったエーコからの手紙の所為かもしれない。

久しぶりに届いた手紙は、ある事を告げていた。

『ガーネット、元気?なんて呑気に挨拶をしていられないのですぐに本文に移るね。

(失礼なのは解かってるから許してね)

お父さんの命令でジタンがテラの調査に行くっていうのは知ってるでしょ?

アレ、急に決まって出発が今日になっちゃったの。

だから、急いでガーネットにも知らせなくっちゃって思って。

でも、心配いらないわよ。ジタンの話だとミコトや黒魔道士の村のジェノムも手伝うことになってるから。

勿論、リンドブルムの優秀な学者や兵士も一緒よ。

ジタンは自分が帰ってくるまでガーネットに知らせるなって言ったんだけど、知らないで後で驚くより、

知ってる方がガーネットにはいいと思ったの。

エーコの独断だから、お節介だったらゴメンね。

来週のお休みにこっちに来るって言ってたでしょ?

楽しみに待ってるわね。ジタンの分も、エーコがお相手するから。

ガーネット様

   エーコより』



エーコからの手紙を丁寧に折りたたみ、ガーネットは小さな溜息をついた。

出発が早まったのは仕方の無いこと。でも心配なのは、壊滅状態にあるテラを目の当たりにした時のジタンの心情だった。あの時、暴走したクジャの力はテラを崩壊させた。崩れ落ちる世界から、ガーネット達はジェノムを連れてインビンシブルに乗り込み脱出した。以来、テラに赴いたものは誰一人としていなかった。管理者を失い、住人をも失ったテラが、かなり酷い状況にあろうことはガーネットにも想像できる。

あの旅の間は次々と起こる事件や闘いに忙殺され、深く考える余裕は誰にも無かった。しかしジタンが何年もの間捜し求めていた故郷を失った事実はガーネットにとっても衝撃的であったし、やっと探し出したその故郷はガイアの敵という立場にあって、更にジタン自身がクジャの後継者として造られたジェノムだったという事実は誰在ろう、本人が一番ショックだったに違いない。

なのに誰もが平静ではいられないような真実を知ったその感傷に浸る間もなく、戦いに明け暮れた日々だった。

しかし今、ジタンはその真実にもう一度向き合う事になるのだ。

「クジャがオレを捨てなかったら、オレがクジャの代わりにガイアを滅ぼそうとしたんだろうな…」

イーファの樹から生還を果たした後、しばらく経ってからジタンはそう言った。

驚いて、彼の表情を覗き込んだガーネットだったが、ジタンはすぐにいつもの表情に戻ってしまっていて、どんな気持ちでその言葉を紡いだのか、ガーネットには解からなかった。

――いつもそうやって、本心を見せてくれないんだから…。

ジタンがガーネットの胸を借りると言った言葉、あの時には冗談だと思って気にしていなかった。でも今は…。

――今は、あの人の泣く場所が私の胸であって欲しいと思うのに…。

そう思って、再びふっと溜息をついた。

窓から見える空の色は、何時の間にか朱に染まっていた。


翌週、ガーネットは久しぶりの休暇を愉しむべく、リンドブルムに赴いた。無論、私的な旅であるのだが、一国の女王であるが故にリンドブルム城に入城するまでの警備は厳重だった。空路を護衛する警備艇に城下町に配備された兵士達。しかしリンドブルム城は飛空艇での入城が可能なのである。護衛の警備艇は解かるとしても城下町の警備の強化はあまり意味があるとは思えない。

「意味はありますのよ」

リンドブルム城の客間で、ヒルダが言った。

「ガーネットさんがいらっしゃるとなると、エーコはあなたと城下町へ行きたがるでしょう。それが解かっているから大公は城下町の警備を強化されたのですよ」

エーコを見ると、舌を出して笑っている。やはりガーネットと共に城下へ出ようと思っているようだった。

「だって、タンタラスのみんなが遊びに来いって言ってくれたのよ。お父さんだって許可してくれたし」

ジタンの不在を取り繕う為に、エーコやシド、それにタンタラスまでが気を使ってくれているのだと、その時ガーネットは気が付いた。

「ありがとう、エーコ。明日にでも出掛けてみましょうね」

ガーネットがそう言って微笑んだのを見て、エーコも嬉しそうに頷いた。

ジタンが調査に出向いてから今日まで、既に5日が経っている。ガーネットがリンドブルムに滞在できるのは1週間。ともすればジタンの帰国を出迎える事が叶うかも知れないのだ。調査の進捗状況にもよるが、予定では1週間から十日という調査期間が設定されていた。



休暇中とはいえ、ガーネットが隣国を訪問するという情報は地方の貴族達の耳にも届いていた。一国の女王であるのに未だ独身のガーネット。それだけでも貴族達の出世欲を刺激するものであるのに、ガーネットは更に美しく才媛であるという誰もが羨む条件を備えているのだ。当然、直接間接を問わず、シドの元には遠まわしに晩餐会への招待を請う声が届いていた。

「すまんの、ガーネット。堅苦しいパーティーは開きたくなかったんじゃが…」

リンドブルムに着いたその日に開かれるという晩餐会の説明を受けたガーネットがシドに微笑んだ。

「仕方ありませんわ、伯父様。却ってご迷惑をお掛けして、申し訳ありません」

全ては彼女に公式に認められた男性がいないという事が原因なのだ。しかしガーネットの心の中には唯一人の男性しかいない。身分がないから、という理由だけで公式には認められていないその思い人は、今ガーネットがいるリンドブルムの大公であるシド直属の外交官だった。

そしてその彼は、シドの勅命で組織された調査団の一員として、輝く島に赴いている。





テラへの入り口である輝く島の跡。以前の島はテラの崩壊と共にその原型を失った。磁場は乱れ、テラへの通路は確認できない。調査団はとにかく、テラへの手掛かりを求めてその場の観察を始めた。

初めの3日間、テラへの通路の観察を行なった結果、一定の間隔で磁場が規則的な活動をし、通路が開かれている可能性が高いことが解かった。しかし生きた人間が通れる保障は無く、無機物を使っての実験ではそれが原型を留めないという残念な結果に終わった。

「諦めるしかありませんな」

調査団の一員である学者が言った。しかしジタンは首を縦には振らなかった。

「もう少し、粘ってみようと思う」

そして更に2日後、テラへの通路に通した物質が無傷で戻ってくるという朗報が齎された。しかしそれが即ち人間が通れるという証でもなく、調査団でも意見が分かれた。行くべきだと言う意見と待つべきだという意見。しかし、ジタンは自分が行くと宣言した。

「無茶よ、兄さん。いくら物が通ったからって、生きた人間にどんな影響があるか解からない」

輝く島の外側に停泊している調査船の上で、輝く島の中心に近付く為の小型ボートの用意を始めたジタンにミコトがそう言って引き止めた。しかしジタンは微笑んで言ったのだ。

「故郷を無くす辛さをお前達に味わわせたくないんだ」

ジタンの言葉にミコトは驚いた。ガイアを本当の故郷だと思ってこの地で生きていく、それがジタンが常日頃ミコトに言っていた言葉だった。しかし心の中の、その最深部では故郷への想いが疼いていたのだろう。

「でも、兄さんに何かあったら…、哀しむひと女性がいるのよ」

――ガーネット…。

その瞬間、ジタンの脳裏に愛しいその女性の笑顔が浮かんだ。

「ガーネットを泣かせたくなければ、兄さんはもっと慎重に行動すべきよ」

そして更に、ミコトは言った。

「あの人が、イーファに消えた兄さんをどんな思いで待ち続けたか…。解かってるでしょ?」

それだけ言って、ミコトはジェノム達のいる船室に戻って行った。

ミコトの言葉はジタンの意志を揺るがせた。

結局ジタンはテラへの通路に飛び込むことを諦め、準備したボートを調査船から降ろさず再び船倉に仕舞った。しかし、ジタンは気付かなかった。ジタンの行動をじっと見詰める瞳の存在があったことに。


ガーネットがリンドブルムを訪れて5日が経った。

公務を忘れてエーコやバクー達と過ごす楽しい毎日。観劇に、買い物に、カーゴシップでの遊覧飛行に…。それでも時折心の隙間に吹き込む風を感じるのは、彼がいない所為だろうか。

そんなガーネットを、バクーがアジトに招待した。

「姫さん、ちょっくら来てみな」

そう言ってバクーはガーネットをアジトの2階から、更に上の小さな部屋に案内した。

「ここは…?」

そこはドアを開けた正面に大きな半円形のパネルのようなものがあり、その脇に小さな窓がひとつだけある、薄暗い部屋だった。

「ここは時計の裏さ」

「時計の裏?」

「そうさ、正確には時計の文字盤の上半分の裏ってところだ。時間がずれたら、この部屋のその窓から直すんだ」

その為の、小さな部屋。なのに、部屋の隅には場違いな品が置いてあって…。

「おお、それに気付いたか」

ガーネットの視線に気付いたバクーが言った。

「この荷物は?」

「それはジタンを拾った時、アイツが身に付けていた服や小物をしまってある箱だ」

ホコリの舞い散る部屋で、その箱だけはきれいに拭かれているらしく、繊細な彫刻を施した外観には聊かの曇りも見受けられない。

「バクーさんが掃除していらっしゃるの?」

ガーネットの問いに、バクーは笑って言った。

「オレだけじゃねぇさ。気付いたヤツがやってる。まぁ、本人がいた頃は、自分でやってたみたいだったがな」

そう言ってから、バクーはガーネットに時計の脇の小窓から外を見るように言った。ガーネットは言われたとおりに窓に向かって歩き、そして窓から顔を覗かせた。

「!」

一瞬目が眩んだのは外に見える夕日があまりにも輝いているように感じたからだった。そして目が慣れてくると、今度はその景観に驚いた。

「どうだ、いい眺めだろ?」

「ええ…、すごく、きれい…」

リンドブルム高原の、その高地にある城下町。その中でもタンタラスのアジトは高台に位置している。その為、窓からは城下町を一望出来るだけでなく、その先に広がる海、そして水平線までをも望む事ができる。

「今は夕日で朱く染まっている海だがな、昼は吸い込まれそうなほどに青く、そして夜は神秘的なあお暗蒼を湛えた表情を覗かせるんだよ」

一日見続けていても飽きないほどその海の表情は変化するのだと、バクーは役者らしい口調で説明してくれた。そしてこう付け加えた。

「ジタンは時々、ここから海を眺めてたなぁ」

その言葉を聞き、ガーネットはエーコからの手紙を読んだ時に感じた疑問を思い浮かべた。

――ジタンに、泣く場所はあるのかしら…?

漠然と、そのこたえ解答を得たような気がした時、した階下からバクーとガーネットを呼ぶシナの声が聞こえた。

「ボス、姫さん、城から迎えが来てるズラ」

急いで階下に降りると、そこには使いの者ではなく、シドが直々に訪ねて来ていた。

「大公さん、自ら御出ましとは珍しい」

バクーがおどけるように言ったのに、シドは相手にせず話し始めた。

「ガーネット、今からワシと一緒に行って欲しい場所がある」

シドの思いつめたような物言いに、ガーネットは驚いた。しかしシドは続けてこう言った。

「バクー、おまえさんにも来て貰うからの」

そして飛空艇の操縦と船の操船ができるという理由で、ブランクも同行を求められた。

「一体何があったと言うんだ、大公さん?」

しかしバクーの問いに、シドは応えなかった。

「とにかく急いでくれ」

言うが早いか、シドはガーネットの手を引いて走り出した。

「お、伯父様?」

訳が解からないまま、バクーはシナに留守を任せるとシドの後を追った。そしてブランクも自分の武器を手に取りその後に続いた。エアキャブに乗り込むと、それは出発時間を待たずに発進した。

「こんな事に権力を使うのはよくないんじゃないのかい?」

そう言ったバクーにシドは緊張した面持ちで言った。

「非常事態じゃ。許せ」

何が起きたのか解からないが、急を要する事態であることだけはその場に居た者達全てが理解した。



NEXT / MENU
関連記事
スポンサーサイト



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

コメント

おすすめ