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2010-02-18(Thu)

FF9 アレクサンドリアの空に

刺すように冷たい空気が晴天の空を青く映していたその日、ガーネットはレッドローズに乗り込んでいた。

ベアトリクス率いる親衛隊員数名と共に、ガーネットはある場所に向かっていた。





それはひと月前のこと。

執務中のガーネットに、一通の親書が届いた。

差出人は見るからに可笑しな取り合わせの連名で、男性の氏名が二つ書かれていた。

「バクーさんと…、ハミルトン伯爵…?」

ガーネットが訝しげに呟くと、政治顧問として執務を補佐するトットも言った。

「想像もできない組み合わせですな」

だが、もっと驚かされたのはその親書が招待状であったこと。純白の上質紙で作られた封筒は、金箔の紋章入りのシールで封をしてあり、それはハミルトン伯爵家の家紋であった。

そして封を切ったガーネットは、またまた驚きを覚えることになった。

「トット先生。これは結婚式の招待状だわ」

「ほう。で、どなたが結婚されるのですかな?」

驚きの声で言ったガーネットに、トットは相変わらずのんびりした口調で問い返す。しかしガーネットが次に伝えたことは、トットにも少なからぬ衝撃を与えた。

「……タンタラスの…マーカスさんと、ハミルトン伯爵の三女、マーガレット嬢ですって」

「ほっ?」

目を丸くして、ガーネットの手の中にあるその書面を見つめ、トットはそのまま固まったように動けなくなってしまった。

ハミルトン伯爵家はアレクサンドロス王家の遠縁に当たる門閥貴族である。伯爵自身は温厚な性格で、アレクサンドリアの首都に集う権力欲の塊のような貴族たちとは常に一線を画している。その為、伯爵はアレクサンドリア首都にある屋敷には住まず、領地であるダリ村の小さな別荘で妻子と共にひっそりと暮らしている。

それでも、アレクサンドリアの貴族社会の中では大きな権限を持った人物であった。

「マーガレット嬢とは、子供の頃によく遊んだのよ。私と同じ年で、お母様同士の仲が良かったの」

過ぎ去った幼い日を見つめるかのように、ガーネットは目を細めてくうを見つめた。

「ですが、これほどまでの貴族が、どのようにしてマーカス殿と知り合ったのでしょうな?」

「マーガレット嬢は芝居がお好きだったから…」

アレクサンドリア城でのタンタラスの公演には、毎年欠かさず訪れていたマーガレット。きっとその時に知り合ったのだろうと、ガーネットは思った。

「ですが、タンタラスといえば表向きは劇団ですが、正体は盗賊。ハミルトン様も良くぞお許しになられたものですなぁ」

「……そうね」

トットの言葉に、ガーネットは少しだけ遅れて返事をした。

アレクサンドリア貴族とタンタラスの団員の結婚。それが歓迎されないことが当たり前の貴族社会。そして女王であるガーネットの恋人もまた、タンタラスの一員だった。

「や、これは、無神経なことを申し上げてしまいました」

その事実に思い至ったのか、トットが慌てて謝罪した。

トットの失言を、ガーネットは小さく微笑んで受け流すと、手元の招待状に目を落とした。

「来月…ダリ村の教会ですって」

「来月ですか。それなら出席可能でございますな」

トットの言葉に、ガーネットの表情が明るくなる。

「行ってもいいの?」

「ハミルトン伯爵からの招待ですからな。無下に断ることもできないでしょう」



女王に出席を乞う場合、事前に打診があることが通例だった。しかし今回は他の貴族達の好奇心を攫うような事情がある為、女王としてではなく一個人としてのガーネットを招待したと考えるべきであった。



そして今、ガーネットはダリ村に向かっていた。



「そろそろダリ村に到着します」

ガーネットの部屋に、ベアトリクスがやって来てそう告げた。

「同じアレクサンドリアなのに…」

「は?」

「城からダリ村は遠いわね」

「ガーネット様?」

ガーネットの呟きを、ベアトリクスが訊き返した。

「アレクサンドリアの領地は広大だわ。でも、そこに住む人に…自由は無い。広い土地の中で身分やら慣例やらに縛られている……」

「…………」

ベアトリクスはガーネットに掛けるべき言葉を探し出せなかった。

マーカスとマーガレットの結婚も、マーガレットがハミルトン家の三女であるから黙認されているのであって、家督を継ぐべき第一子であったなら周囲の反対も大きかったに違いない。王家の血筋を汲む貴族の家系に他国の民間人が加わるなど、アレクサンドリアの大貴族たちが黙って見過ごすはずが無いのだから。

そしてマーガレットは結婚後にリンドブルムの国籍を取得し、ハミルトン家からは除籍、つまり絶縁することになっていた。それがアレクサンドリア貴族社会における慣例であった。

「ガーネット様…」

「あ、ごめんなさい。忘れてちょうだいね」

弱々しく微笑んで、ガーネットはベアトリクスに言った。

「ダリ村も久し振りですもの。村長はお元気かしら」

さりげなく話題を変えて、ガーネットは椅子の背凭れに掛けてあったショールを手に取った。

季節は冬。

ダリ村の寒さも首都に劣らぬものがあった。





レッドローズから降り立ったガーネットを出迎えたのは、ダリ村の村長とハミルトン伯爵であった。

「わざわざのお運び、恐悦至極に存じます」

二人の紳士は揃ってこうべを垂れた。

「今日はお招きいただき、ありがとうございます。ですが、今日の私は女王ではなく、マーカスさんとマーガレット嬢の友人として、個人的に参ったのです。畏まる必要はありませんわ」

ガーネットは誰もが惹かれるという至上の微笑みを浮かべた。そしてその笑顔を贈られた二人の紳士は更に畏まることになったのだった。



「おう、姫さん。遠いところをわざわざ済まないな」

ガーネットに気付いたバクーが手を振りながら近付いてきた。

「こ、こら、バクー。陛下に向かってなんという態度を!」

村長が慌ててバクーを制したが、バクーは気にも留めていない。

「よろしいのですよ、村長。私とバクーさんはいつもこんな感じですし、バクーさんに畏まられてしまったら居心地が悪いわ」

「姫さんは今日は女王としての出席じゃねぇんだから。普通の客と思っていいんだよな…ヘブシュン!」

相変わらずのバクーに、ガーネットは明るく笑った。その笑顔は女王のそれではなく、一人の女性としての明るい笑顔だった。



ハミルトン伯爵と村長が席を外し、バクーと二人になったガーネットは気になっていたことを尋ねた。

「あの…、ジタンはどこですか?」

ガーネットが今日の結婚式への出席の意思を伝えて以降、当然あると思っていたジタンからの連絡は一度も無かった。

「ジタンか。ヤツはヤボ用でな」

「え?」

「式に間に合うように戻って来るって言ってたんだが…、どうしたもんか」

「そう…ですか……」

ジタンの不在に肩を落としたガーネットの背に手を当てて、バクーは村外れの建物を見遣った。

「あっちでマーガレットが待ってるよ。会ってやってくれるか?」

バクーは既に、今日から新たに仲間となるマーガレットの親としての振る舞いを見せていた。



「マーガレットさん」

花嫁の控え室のドアをノックして、ガーネットは声を掛けた。

「まあ、ガーネット様。今日はありがとうございます」

ドアが開くと同時に、マーガレットの愛らしい声が響く。

部屋に入ると、マーガレットは既に支度を終えており、すぐに人払いをしてガーネットと二人だけになった。

「ガーネット様とジタンさんのことはマーカスから聞いています。私達の結婚にもいろいろと骨を折ってくださって、いい人ですよね、ジタンさん」

仲間思いのジタンのこと。きっと障害の多いこの二人が結ばれるまで、何かと力になっていたのだろう。

「今日も、内緒ですけどシド様の命を受けてのお仕事なんだとか。一人でこなすには大変なお仕事らしいのですけど、バクーさんもマーカスも手伝えませんし、他の方にもこっちに行くように勧めて一人で出掛けられたそうです」

ジタンらしい、とガーネットは思う。仲間の結婚式に出席したい気持ちは皆同じ。だったら自分一人が仕事を引き受けてしまえば他の皆は結婚式に出席できる。

「でも、式に間に合うように戻ると言ってらしたそうですから、きっとお会いになれますわ」

マーガレットはガーネットを気遣うようにそう言った。

「私はいいのよ。今日はあなたとマーカスさんに会いに来たんですもの」

済まなそうな表情のマーガレットにガーネットは優しく微笑んで見せた。

「あ、私…、お祝いの言葉がまだでしたわ。マーガレットさん、おめでとうございます。誰もが羨むような幸せな家庭を築いてくださいね」

「はい。ありがとうございます」

頬をほんのり朱に染めて、花嫁は幸せそうに微笑んだ。

その笑顔に微笑を返してガーネットは控え室を後にした。



マーガレットの微笑みの向こう側に、ガーネットは涙を見た気がした。ガーネットの思い過ごしであろうが、手放しで幸せを噛み締めているとは到底思えない境遇にあるマーガレットなのだ。

アレクサンドリアの貴族として育った彼女は、これからの長い人生をリンドブルムの平民として生きる。無論、実家であるハミルトン家とも堂々とは行き来できない。それが貴族社会なのだ。

そのことに関し、ハミルトン伯爵はガーネットに相談を持ちかけることをしなかった。娘が貴族籍を剥奪されないようにと、その権力を振るって女王に談判することをしなかった。ガーネットの多忙なことを配慮した、伯爵らしい計らいだと思う一方申し訳ない気持ちが湧き起こる。タンタラスとも、伯爵家とも親交があったガーネットなのに、運命の恋人達の存在を全く知らなかったのだから。





式が始まり、腕を組んだハミルトン伯爵とマーガレットがバージンロードを歩く。そして花嫁の手は途中で待つマーカスに渡される。

それは単に娘を嫁がせ、夫となる男に娘を託すという儀式ではなかった。世間的には絶縁となる娘との別れを意味する儀式だった。

そんな伯爵の表情を、ガーネットは正視できなかった。逸らした視線の先では、夫と娘を見つめる伯爵夫人がその瞳から大粒の涙を溢れさせている。

喜ばしい筈の結婚式の裏に潜む辛い事実は、ガーネットの胸を鋭く抉った。



人々の複雑な思いを他所に、神父の言葉で式は滞りなく進んでいく。

誓いの言葉を述べて、指輪を交換し…。

永遠の愛を誓う口付けを交わす。

「ここに、この二人を夫婦と認めます」

神父の高らかな宣言で、二人は夫婦となった。そして、マーガレットはアレクサンドリアの国籍を失った。





式が終わり、披露宴が始まるまでの時間を、ガーネットは物見山で過ごしていた。高地にあるダリ村の、更に高い地にある広場からは、グニータス盆地を挟んでアレクサンドリア城が小さく見えている。

クリスタルの大剣が輝く城を見つめ、ガーネットは考えていた。

アレクサンドリアを支配する身分制度。国民は、それをどう思っているのだろうか、と。

貴族は貴族同士で結婚し、民間人は民間人同士で結ばれる。アレクサンドリアはそれが当然の国であった。

――マーカスとの結婚を許したハミルトン伯爵は偉大な方だわ。でも、誰が好き好んで大切な娘を他国に、それも除籍までして嫁がせたいと思うかしら…。

娘の幸せを願うからこそ、ハミルトン伯爵は決断したのだろう。だが、この国の風潮が身分というハードルをもっと低くしてくれていたら、マーガレットはハミルトン家と縁を切ることは無かったのだ。

――風潮…? 違うわ。私が変えていかなければならない、国民一人ひとりの意識だわ…。

結婚すれば、実家から籍を抜くのは当然のこと。だが、今回の除籍は絶縁を意味する。マーガレットはハミルトン家とは関わりの無い人間として生きていかねばならないのだ。

そしてガーネットの場合は…。

――貴族の娘と他国の民間人の結婚が難しいのに、私とジタンの結婚なんて無理なことなのだわ…。

自らが望む結婚の、そのあまりにも困難なことにガーネットは嘆息した。



物見山に吹き込んだ風が、ガーネットの髪をくすぐった時、ふと、ジタンの声が聞きたくなった。

『どんな障害も乗り越えて、ガーネットと一緒になってみせるさ』

ある日、ジタンはそう言った。

それが夢であっても、彼の口から紡がれた言葉であるなら信じられる。夢を現実にできると思えるのだ。

しかしジタンはここにいない。



身分を越えた結婚の実現――。困難でも遣り遂げなければ不幸になる恋人達は減らないだろう。だがその道程は、決して平坦ではない。そしてその困難さを意識した時、ガーネットの脳裏に過ぎったのは絶望に似た想いだった。

――国を変え、国民の意識を変えることが叶ったとしても、その時まで私は独身を貫けるのかしら…。

ガーネットには女王として王位継承者を育まなければならない義務があるのだ。数年後、ガーネットが望まぬ結婚をさせられていないと、誰が保証できるだろう。

「…ジタン」

愛しいその名を呟いて、ガーネットは涙を零した。

抱きしめて、一言『大丈夫だよ』と言って欲しかった。





「おねえちゃん」

その時、ガーネットの背後から懐かしい声が聞こえた。あの辛い旅の間、自らの運命に翻弄されること無く立ち向かった、小さな黒魔道士の声。

だが彼の時は止まったはずで…。

ガーネットはゆっくりと、声のした方向に振り向いた。

「おねえちゃん、これ」

そこに立っていたのは『黒魔道士の村』に住むミコトと、ビビの子供の一人だった。

彼はその手に持っていた手紙をガーネットに差し出した。

「これは…?」

ガーネットのその問いに応えたのはミコトだった。

「ビビが書き遺した手紙よ」

「え?」

「止まってしまうことを悟った彼が、徐々に利かなくなる手を必死に動かして書いた手紙」

しかしビビの時が止まってから、既に数年が経っている。

「どうして今更…、なんて言わないでね。ビビの言い付けを守っただけなのだから」

「言い付け?」

「そうよ。もし、ビビが止まってから5年経っても、あなたが兄さんと結婚していなかったら渡してくれってね」

そしてあれから5年が経っている。

ガーネットはその手紙をゆっくりと開いた。


 おねえちゃんへ

 

   ボクはボクの時間を精一杯生きることができたよ。

   それはおねえちゃんや、みんなのお陰だと思うんだ。

   でもね、一つだけ残念なのがおねえちゃんとジタンの結婚式に出られないこと。

   

   ボクは必ず生まれ変わって、今度はジタンとおねえちゃんの子供になるよ。

   だからね、おねえちゃん。

   きっとジタンと結婚してね。

   早くおねえちゃんやみんなに会いたいから、早くジタンのお嫁さんになってね。

 

     ビビ・オルニティア
 

 

手紙を読んだガーネットの瞳からは涙が溢れた。ビビの望む、そしてガーネット自身が望むジタンとの結婚の困難なことに絶望を感じていた矢先のメッセージ。

「ビビはね」

泣きつづけるガーネットにミコトが言った。

「ビビは自分の時間が止まる、その直前まで、仲間たちのことを気遣っていた。そして最後まで、懸命に手紙を書きつづけたの」

そこまで告げて、ミコトはガーネットの反応を待った。しかし彼女は相変わらず泣き続けている。

「あなたが何を悲観しているのか知らないけど、ビビは僅かだった時間を悔いなく精一杯生きたわ。あなたにはビビより長い時間があるんだもの。悲しむばかりじゃなく、彼のように諦めないことが大切なんじゃないかしら?」

それだけ言って、ミコトはビビの子供を連れて物見山を降りていった。



――諦めない…?

ミコトの言葉を聞き、ガーネットは旅の間、ダガーと名乗っていた頃を思い出した。

世間知らずの姫君が国を、そしてガイアを救う旅を成し遂げた。それは仲間の助けもあったけれど、自分自身も諦めることをしなかったから。

「諦めなければまた、望みは叶うかしら」

ビビからの手紙を胸に抱き、ガーネットは空を見上げた。

女王である自分と他国の民間人であるジタンとが結ばれるには、様々な困難が待ち受けている。でも、諦めていては何も変わらない。

『おねえちゃん、頑張って』

その時、青空の向こうでビビが微笑んでいるように思えた。





ガーネットはしっかりとした足取りで、物見山を降りていった。

マーカスとマーガレットの披露宴は、教会近くの草原でのガーデンパーティー。既に皆が集まって、ガーネットに手を振っている。そしてその中に、ガーネットは愛しい人の姿を見つけた。

――ジタン!

愛しい人の笑顔を見たガーネットの中に、どんな困難でも乗り越えられる自信が生まれた。

今日のこの披露宴の主役であるマーカスとマーガレットの為にも、不条理な慣習は取り払わねばならない。

自分の許に走ってくるジタンの姿を見つめながら、ガーネットは呟いた。

「どんな障害も乗り越えて…、ジタン、あなたと一緒になってみせるわ」

そしてそのぬくもりを分かち合う為に、ガーネットもジタンに向かって走り出していた。





        
80,000Hit、北風ぴいぷう様からのリクエストは『ED後のジタンとガーネットの恋物語にビビを絡ませて切ない話に』でした。

恋物語というより結婚問題になってしまっていますが、切ない話にするのは難しかったです。(恋物語っていうと明るいイメージがあったもので)

ずっとEDを切な系で終らせようとしていましたけど、逆にしてみました。ビビがジタンとガーネットを悲しませるようなことをするはずもないですから。でもね、この話に辿り着くまでに3作ほどの書きかけ小説ができてしまいました。かなり暗い感じの。なのでお蔵入りかと思いますが、機会があったら公開します。

切ないというより辛い感じの話になってしまいましたが、これでよろしかったでしょうか?

2003.1.2



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